戦略的思考をどう実践するかは上級篇?前作と目次を章ごとに対照

『戦略的思考とは何か』と副題までそっくりな『どう実践するか』は、前作を読んだ人が買い足す本なのか、それともこちらから読んでいいのか。
『戦略的思考をどう実践するか』は、原書『The Art of Strategy』(2008年)の邦訳だ。この記事では、上級篇・続編・改訂という3つの呼び方を出典ごとに並べ、前作と目次を章ごとに対照して、どちらから読むかを構成の面から確かめる。
当ブログは2020年12月に本書のKindle版を購入している。
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『戦略的思考をどう実践するか エール大学式「ゲーム理論」の活用法』
アビナッシュ・ディキシット、バリー・ネイルバフ 著/嶋津祐一・池村千秋 訳/阪急コミュニケーションズ(2010年)、現在はCEメディアハウス/415ページ
目次
結論|版元は上級篇、原書はsequel、著者は改訂のつもりだった
読み順から先に答えると、中身の構成は前作と重なる主題が大半を占め、新しく立った章は2つ。第1部に基本原則の章を自前で持つため、本書から読み始めることも構造上は可能と読める。
呼び方のほうは出典ごとに違う。日本の版元は本書を「上級篇」、原書の出版社は「sequel(続編)」と紹介している。一方で、著者は原書の序文で、当初は前作を改訂するつもりだったが、書き進めるうちに大半が新しくなったため新しい書名にした、という経緯を述べている。どれか一つが正解というより、立場ごとに呼び方が違う本だ。以下、その根拠を書誌・出典・目次の順に並べる。
書誌|原書The Art of Strategyの邦訳
「The Art of Strategy」の日本語版を探しているなら、この本が該当する。原書は『The Art of Strategy: A Game Theorist's Guide to Success in Business & Life』で、2008年にW. W. Nortonから出た。
| 項目 | 本書『どう実践するか』 | 前作『とは何か』 |
|---|---|---|
| 副題 | エール大学式「ゲーム理論」の活用法 | エール大学式「ゲーム理論」の発想法 |
| 原題 | The Art of Strategy(Norton、2008年) | Thinking Strategically(1991年) |
| 邦訳の刊行 | 2010年・阪急コミュニケーションズ | 1991年・TBSブリタニカ |
| 現在の版元 | CEメディアハウス | CEメディアハウス |
| 訳者 | 嶋津祐一・池村千秋 | 菅野隆・嶋津祐一 |
| 頁数(紙) | 415ページ | 334ページ |
見落としやすいのが訳者だ。嶋津祐一氏が両方の訳者に入っていて、2冊の訳語の連続性を考えるうえで手がかりになる。副題は「発想法」と「活用法」の一語違いなので、書店で探すときは取り違えに注意したい。発想法が1991年の『とは何か』、活用法が2010年の『どう実践するか』だ。
版元の紹介では、ゲーム理論の最近の成果を加え、実用面を強化したとされる。事例はビジネスや政治・軍事に加えて、スポーツ、文学や映画、人間関係にまで広がり、章末には「戦略トレーニングジム」という演習のコーナーがある。推薦者としてノーベル経済学賞のT・シェリング氏の名前が挙がる。
大学での採用例もある。京都大学経済学部の2回生演習で教科書に使われた年度があり、早稲田大学の安田洋祐氏の講義ページ(2013年度)でも参考書に挙がっている。いずれも特定の年度の情報だ。
上級篇・続編・改訂、呼び方を出典ごとに並べる
「上級篇」「続編」「改訂」は、言っている主体がそれぞれ違う。混ぜずに並べると次のとおり。
- 日本の版元(CEメディアハウス)=上級篇紹介文で「ベストセラー『戦略的思考とは何か』の上級篇」とうたう。国立国会図書館の内容紹介も同じ文面だ。
- DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2018年)=続編前作を紹介する記事の注で、本書を続編と呼び、戦略的思考の定義に「協力し合う方法を見いだす技」などが加わったと紹介している。
- 原書の出版社(Norton)=sequel内容紹介で、Thinking Strategicallyの著者による「long-awaited sequel」と書く。
- 原書の著者序文=改訂のつもりが新しい書名に当初は1991年の前作を改訂する予定だったが、新しい応用や理論の展開で大半が書き換わり、新しい書名をつけることにした、という趣旨を述べている。
- 原書の読者=見方が分かれる英語のレビューサイトでは、前作とほぼ同じ内容で続編ではないとする声と、改訂のつもりが書き直しになった経緯は序文にあるとする声の両方がある。
日本側にも別の言い方がある。日本大学経済学部の推薦図書の紹介は本書を前作の「応用版」と呼び、2冊を合わせて読む読み方を勧めている。国内の電子書店のレビューには「加筆版」と受け取った読者の声もある。上級篇・続編・応用版・加筆版のどれも、それぞれの立場からの呼び方であって、どれか一つに決める材料は今のところない。
前作と目次を章ごとに対照
では、中身の骨格はどこまで同じなのか。前作の目次(書店の書誌データ)と本書の目次(版元サイト)を、章の主題ごとに並べた。章名は見出しの要約で、中身の比較ではない。
| 主題 | 前作『とは何か』(1991年) | 本書『どう実践するか』(2010年) |
|---|---|---|
| ショートストーリー | 第1部 戦略ショートショート | 第1部 第1章 |
| 交互行動ゲーム | 第1部 | 第1部 第2章 |
| 囚人のジレンマ | 第2部 | 第1部 第3章(基本原則の側へ移動) |
| 同時進行ゲーム/ナッシュ均衡 | 第1部 同時進行ゲーム | 第1部 第4章(章題にナッシュ均衡が独立) |
| 予測不能性/ミックス戦略 | 第2部 予測不能性 | 第2部 第5章 |
| 戦略活用行動 | 第2部 | 第2部 第6章 |
| 実行の確約 | 第2部 | 第2部 第7章 |
| 情報の解釈・操作 | 対応する章なし | 第2部 第8章(新設) |
| 協力と協調 | 第3部 | 第2部 第9章(戦略論の側へ移動) |
| オークション | 対応する章なし | 第3部 第10章(新設) |
| 瀬戸際戦略・交渉 | 第3部に別々の章 | 第3部 第11章(1章に統合) |
| 投票/選挙 | 第3部 | 第3部 第12章 |
| 誘因 | 第3部 | 第3部 第13章 |
| ケーススタディ | 第3部 | 第3部 第14章 |
表から読み取れるのは3点。
- 重なる主題が大半表の14行のうち、前作に対応する章がないのは2行だけ。残りは章の名前や置き場所が変わっても、主題としては前作と重なる。
- 新設は2章「情報の解釈・操作」と「オークション」。加えて、ナッシュ均衡が章題として独立した。
- 3部立ては同じ、章の置き場所は移動囚人のジレンマは基本原則の第1部へ、協力と協調は第2部へ移った。瀬戸際戦略と交渉は1つの章にまとまっている。
前作の書誌や、同じ題名を持つ別の2冊との見分け方は、前の記事で整理した。
関連記事: 戦略的思考とは何かは同名が3冊?ゲーム理論版と岡崎久彦版
上級篇から読んでいい?目次の構成から言えること
ここで扱うのは書誌と目次と、版元・著者・読者の公開された記述までで、ゲーム理論の中身の解説ではない。以下はその範囲から言える見立てで、読み比べた感想でもない。
本書の第1部は「ゲーム理論の基本原則」と題され、交互行動ゲーム・囚人のジレンマ・ナッシュ均衡の章を含む。同じ骨格を書き直して広げた本に近い。前作を前提にした続き物ではない、と目次からは読める。
| こんな人 | 目次から見た選び方 |
|---|---|
| どちらも未読で、1冊に絞りたい | 基本原則を含み、新設2章もある本書が候補。ただし415ページと厚い |
| 薄い方から入りたい | 334ページの前作。主題の大半は本書と共通 |
| 前作を読んだことがある | 新しいのは情報とオークションの2章と事例の広がり。重なりを承知のうえで選ぶ |
| 前作を読み込んでいて新しい論点だけ欲しい | 主題の大半が重なる。情報の解釈・操作とオークションの2章が目当てかどうかで決める |
| 原書The Art of Strategyを薦められた | その邦訳が本書。前作の原書はThinking Strategically |
難しさはどうか。国内の電子書店のレビューには「難解な箇所もある」という声がある一方、「事例は確かに豊富」とも書かれている。厚さを負担に感じるなら、電子版で持つのも一つの手だ。
ゲーム理論を経済学の教科書の側から押さえたい人には、ミクロ経済学の定番書を整理した記事がある。
関連記事: ミクロ経済学の力は独学できる?定番教科書のレベルと使い方
紙と電子の入手先
紙は単行本のみで、文庫版は確認できなかった。電子はKindle版のほか、楽天Koboやブックライブでも配信されている。音声版は、2026年10月時点で見当たらない。
- 単行本415ページ・22cm。CEメディアハウス表記。在庫は書店ごとに確認したい。
- 電子版Kindle・楽天Kobo・ブックライブなど。Kindleの商品ページに出るページ数は電子の換算値で、紙の頁数とは別物だ。
- 原書Norton 2008年のハードカバー、2010年のペーパーバックと電子版がある。
当ブログは2020年12月にKindle版を購入していて、購入当時1,600円だった。価格は時期により変わる。翻訳書の定番を電子でそろえるなら、セールやクーポンの多いストアを知っておくと選択肢が広がる。
関連記事: 電子書籍のセール・クーポンが多いアプリ徹底比較|お得に買う3選
まとめ|呼び方は出典ごと、骨格は共通
- 原書The Art of Strategyの邦訳2010年刊・415ページ・嶋津祐一・池村千秋訳。版元は阪急コミュニケーションズから現在のCEメディアハウスへ。
- 呼び方は出典ごとに違う版元は上級篇、Nortonはsequel、著者序文では改訂の予定が新しい書名に。原書の読者の間でも見方が分かれている。
- 目次は大半が前作と共通新設は情報の解釈・操作とオークションの2章。3部立ては同じで、章の置き場所が一部移動している。
- 本書から読み始めることも構造上は可能第1部に基本原則の章がある。薄い方から入りたいなら334ページの前作。
前作と本書のどちらを手に取るかは、厚さと新設2章をどう見るかで決めればいい。副題の「発想法」と「活用法」を取り違えないことだけは、買う前に確かめておきたい。
同じように、続編か改訂かで迷いやすい定番書の組み合わせは経営戦略にもある。
関連記事: 競争戦略論I・IIと競争の戦略、どっちを買う?論文集から入る理由

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