ミクロ経済学の力は独学できる?定番教科書のレベルと使い方

「最初から偏微分と立体図形が出てくる」。
『ミクロ経済学の力』のレビューを調べると、こんな警告めいた声に行き当たります。出版社が自ら「中級」と位置づける552ページの教科書。授業も先生もなしに、これを独学で読み通せるのか。「講義を受けているようなライブ感」という絶賛と「数式が案外多い」という注意喚起が同居していて、買う前に不安になるのは当然です。
結論から言うと、独学は可能です。ただし条件がある。この本は数学を避けて通してくれる本ではなく、「必要な数学をその都度、その場で、一から説明する」本だからです。数式から逃げたい人には向かず、数式と付き合う覚悟がある人には最良の独学書になる。この記事では、書誌情報とレビューの傾向から独学が成立する条件を整理し、つまずき箇所の予告と演習書『ミクロ経済学の技』の正しい併用法まで案内します。筆者は2021年8月にKindle版を購入しています。
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目次
独学できるかの結論|数学との向き合い方が分かれ目
まず、この本を検討している人が知りたい問いに順番に答えます。
- Q. 授業なしで読み進められるか読める設計です。「講義を受けているようなライブ感」と評される語り口で、定義と証明を積むタイプの教科書ではありません。独学者を想定した丁寧さが本書の看板です。
- Q. 数学はどこまで必要か高校数学だけで楽に読み切れる本ではありません。偏微分や制約付き最適化が登場します。ただし出版社の公式方針どおり「必要な数学はその都度、その場で、一から」説明されるため、数学書を先に1冊仕上げておく必要はない構成です。
- Q. 向かないのはどんな人か数式なしの読み物として経済学を楽しみたい人、短期間で要点だけ拾いたい人。その場合は教科書ではなく読み物から入るのが正解で、候補は最終節で紹介します。
つまり分かれ目は頭の良し悪しではなく、数式が出てきたときに「その場で説明を追う」姿勢を保てるかどうか。ここが保てるなら、独学の教材としてこれ以上の定番はなかなかありません。
どんな本か|経済セミナー連載から生まれた中級教科書
著者の神取道宏さんは、ゲーム理論を専門とする東京大学の経済学者。本書は雑誌『経済セミナー』の連載を書籍化したもので、2014年に日本評論社から刊行されました。連載出身という出自が、そのまま文体の強みになっています。誌面で読者に語りかけてきた説明がベースなので、行間を読ませる硬い教科書とは肌触りが違う。「日本語で書かれた本格的な教科書」として、大学の授業から編入試験・資格試験のインプットまで幅広く使われる定番です。
扱う範囲は標準的なミクロ経済学の中核そのもの。序章「経済学の目的と方法」から始まり、消費者行動、企業行動、市場均衡、市場の失敗、そして戦略的状況までを一気通貫で扱い、理解を助ける補論が付きます。刊行から10年以上経ちますが改訂版は出ておらず、2014年版がそのまま現行版。理論の中核を扱う本なので、内容が古びる性質のものではありません。
つまずき箇所の予告|偏微分・立体図形・552ページ
独学の失敗は、たいてい「どこで止まるか」を知らないまま突入することで起きます。レビューの声から、あらかじめ場所を特定しておきましょう。
| つまずき箇所 | 読者の声・実態 | 対処 |
|---|---|---|
| 序盤の偏微分・立体図形 | 「最初から偏微分と立体図形が出てくる」と挫折の警告が集中 | その場の数学説明を飛ばさず読む。序盤だけペースを半分に |
| 数式の量 | 「数式が案外多い」。入門読み物を期待すると面食らう | 数式は結論ではなく説明の道具と割り切り、日本語の説明とセットで追う |
| 552ページの継続 | 「じっくり読めば理解できる」=裏返せば時間がかかる | 週単位の計画にする。1日で進もうとしない |
注目してほしいのは、挫折ポイントが「経済学の概念が難しい」ではないこと。壁はほぼ数学の見た目と分量に集中しています。逆に言えば、序盤の偏微分の山を越えた読者からは「本質がわかる」という評価に変わる。最初の100ページを乗り切れるかが独学成否の勝負どころです。
『ミクロ経済学の技』との使い分け|本編に戻りながら解く
本書の弱点をひとつ挙げるなら、演習量です。読んで理解できることと、手を動かして解けることは別物。そこを埋めるのが、同じ著者による演習書『ミクロ経済学の技』(2018年・日本評論社)です。本編に準拠した問題集で、編入・資格対策の文脈でもこのセット使いが定番になっています。
ただし、使い方を間違えやすい本でもあります。『技』のレビューには「解説がさらっとしている」「本編に戻りながら進めた」という声があり、問題集単独で完結する作りではありません。役割分担はこうです。
- 『力』=講義理論と直観、数学的な説明を学ぶ本編。
- 『技』=演習本編で学んだ理論を、問題を解いて定着させる問題集。
- 回し方本編を1章読む→『技』の対応問題を解く→詰まったら本編の該当箇所に戻る。この往復が前提の設計です。
試験対策など明確なアウトプット目標がある独学者は最初から2冊体制を、教養として理解したい人はまず本編だけで十分。この分岐を最初に決めておくと迷いません。
読み物から入る2段構え|直観的方法との役割分担
序盤の数学に不安が残る人には、順番を変える手があります。先に数式なしの読み物で経済学の大筋を掴み、それから教科書で体系を固める2段構えです。読み物側の定番は『現代経済学の直観的方法』(長沼伸一郎/講談社)。「読み物で直観→教科書で体系」の順なら、本書の偏微分も「大筋は知っている話を厳密にやり直している」と受け取れて、心理的な負荷が大きく下がります。
関連記事: 現代経済学の直観的方法は難しい?数式なしの経済入門の読み方
価格について経験談をひとつ。筆者がKindle版を購入した2021年8月当時は2,500円でした(価格は時期により変わります)。552ページの教科書を持ち歩かずに済む電子版は、通勤時間を独学に充てたい社会人とは相性の良い選択肢です。ちなみに、人間の心理のクセから経済を見る行動経済学に興味が向いたら、入口の並べ方はこちらにまとめてあります。
関連記事: 行動経済学の本はどれから読む?入口は予想どおりに不合理
まとめ|数式と付き合う覚悟が独学の入場券
『ミクロ経済学の力』の独学は、数学をその場で学ぶ姿勢さえあれば成立します。壁は序盤の偏微分・立体図形と552ページの分量に集中しているので、そこだけペース配分を落とすのがコツ。演習が必要なら『技』を本編との往復で使い、数学への不安が強ければ読み物からの2段構えに切り替える。自分の目的に合わせて入り方を選べば、10年以上定番であり続ける理由を体感できる教科書です。
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