戦略の世界史は難しい?上下巻の分かれ目と経営戦略が出る章

戦略の世界史は難しい?上下巻の分かれ目と経営戦略が出る章

「戦略の本と思い読みましたが思想、政治、哲学のカテゴリーかと思います」。
『戦略の世界史』(ローレンス・フリードマン)のAmazonレビューにある言葉です。ビジネスの戦略論を期待して上巻を開くと、旧約聖書と古代ギリシャから話が始まり、クラウゼヴィッツと核戦略が続く。経営戦略の話はどの章に出てくるのか。上下巻はどこで切れているのか。そもそも下巻だけ読んでもいいのか。

結論から書くと、章題に「経営戦略」が出てくるのは下巻の第IV部(第28〜35章)で、上巻は戦争と政治の戦略に費やされます。しかも上下の切れ目は第III部の途中にあり、下巻の最初の6章はまだ政治と社会運動の話。この記事は内容の要約ではなく、読む前の地図。上下巻の分かれ目、経営戦略が出る章、単行本・文庫・Kindleの違い、「下巻だけ読む」という選択肢について、版元の目次と読者の声で整理します。

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戦略の世界史 上 表紙

『戦略の世界史 戦争・政治・ビジネス』上・下

ローレンス・フリードマン/貫井佳子訳/日本経済新聞出版(単行本2018年・上560ページ・下552ページ・版元表記。日経ビジネス人文庫版は2021年)

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難しいかの結論|難しさは文章より「範囲の広さ」。経営戦略の章は下巻の後半にある

難しい本ですが、難しさの中心は一文の読みにくさより「扱う範囲の広さと分量」にあります。5部38章、紙の単行本で上下1,100ページ超の通史で、旧約聖書から冷戦、公民権運動、経営学まで「戦略」と呼べるものを順に並べていく構成。経営戦略を目当てに買った人が「歴史の本だった」と感じる位置に、この本の難しさが集まっています。

読者の声を型で分けると、止まる理由は三つに絞れます。

  • 期待と中身のずれ「『戦略』に関心のある人よりは、『歴史』に関心のある人に向く本なのかもしれない」(Amazon上巻レビュー)、「あくまでも『世界史』の本」(ブクログ)。書名の「戦略」だけで手に取ると、副題の「戦争・政治・ビジネス」の順に話が進むことに面食らう。
  • 分量と文の長さ「とにかく膨大な量があり、読むことに苦労します」(Amazon下巻レビュー)、「一文が長くて、読むのは大変」(読書メーター)。一方で「翻訳は問題ないどころか、素晴らしい」(Amazon上巻レビュー)、「訳語はスムーズ」(ダイヤモンド・オンライン、奥山真司氏の評)という評価もあり、訳文への評価は割れている。
  • 結論が見えない「結局、戦略とは何かという問いに対する答えがある訳ではない」(ブクログ下巻)、「結論がやや肩透かし」(奥山氏の評)。著者の主張を求めて読むと物足りない、という声です。

向く読み方も、レビューの中に書かれています。「概要を把握し、自分が深掘りしたい人や分野を見つけるためと割り切るのであれば、それなりの価値はある」(Amazon上巻レビュー)。何を目当てに読むかを先に決める本で、Amazonの評価は上4.1(84件)・下4.1(65件)、星5が約半数、星2以下が約1割(2026年9月時点)。星の散らばりが大きい本だからこそ、買う前に「どこに何があるか」を知っておく価値があります。

どんな本か|5部38章。単行本 上560頁・下552頁、文庫 上680頁・下664頁、Kindleは1種のみ

書誌から確認します。著者のローレンス・フリードマン氏は、版元のプロフィールによると「英キングス・カレッジ・ロンドン戦争研究学部名誉教授。国際政治研究者」。原著はStrategy: A History(Oxford University Press、2013年)で、原書は1冊752ページ、日本語版は上下に分冊されました。訳は貫井佳子氏(『投資で一番大切な20の教え』などの訳者)。版元の紹介文では「戦略とはパワーを創り出すアート」という一文で本書の主題が示され、副題の「戦争・政治・ビジネス」の順に話が進みます。

戦略の世界史 下 書影
項目内容(出典)
単行本2018年9月27日・日本経済新聞出版社・四六判・上560ページ・下552ページ(版元表記。国立国会図書館の登録は557/549ページ)。巻末に原注・索引(下巻は謝辞も)
文庫2021年8月4日・日経ビジネス人文庫・上680ページ・下664ページ(版元表記。国立国会図書館の登録は676/658ページ)。書誌注記は「2018年刊の一部改訂」
Kindle上下の2点のみ(文庫版のKindleは無い)。2018年9月25日配信。Amazonの「本の長さ」表記は上635ページ・下668ページ。上巻はX-Ray対応、下巻は非対応(2026年9月時点)
構成5部38章。上巻=第1〜21章、下巻=第22〜38章。本文の前に「まえがき」があり、冒頭にマイク・タイソンの言葉が引かれている(レビュー複数)
音声版なし。AmazonにAudible版の紐づけがなく、audiobook.jpの検索でも該当なし(2026年9月時点)
評価Amazon 上4.1(84件)・下4.1(65件)(2026年9月時点)
書評掲載日本経済新聞朝刊に2回。単行本は2018年12月15日(評者・小関広洋氏)、文庫は文庫化から4年後の2025年7月5日(評者・吉田圭秀氏、統合幕僚長)(版元ドットコム掲載情報)。ビジネス書の棚に置かれつつ、軍事・安全保障の側からも読まれている本

本記事の筆者が所持しているのはKindle版の上下巻(2020年7月に購入。購入当時は各1,750円で、価格は時期により変わります)。紙の単行本は上巻のほうが下巻より厚いのに、Kindleの「本の長さ」表記は上635ページ・下668ページと逆転する。Kindleの「本の長さ」はAmazonの換算表記で、紙の頁数とは基準が別。表記上の数字はこのとおりです。読者レビューには「上巻だけでも470ページ以上」(ブクログ)と本文部分を数えている人もいて、どの数字で見ても1冊で500ページ前後の本が2冊ある、という分量感は変わりません。

上下巻の分かれ目|第III部が上下にまたがる。「下巻だけ読む」声と「第III部で止まる」声

「上巻は軍事、下巻はビジネス」と思って買うと、下巻の最初でつまずきます。目次で見ると、切れ目は第III部の真ん中にあるからです。

部章巻主な章題(版元の目次)
第I部 戦略の起源第1〜5章上進化/旧約聖書/古代ギリシャ/孫子とマキャベリ(第4章)/サタンの戦略
第II部 力の戦略第6〜17章上クラウゼヴィッツ/殲滅戦略か、消耗戦略か/核のゲーム/ゲリラ戦/戦略の達人という神話
第III部 下からの戦略第18〜27章上(第18〜21章)
下(第22〜27章)
マルクスと労働者階級のための戦略/非暴力の力/ブラック・パワーと白人の怒り/人種、宗教、選挙
第IV部 上からの戦略第28〜35章下マネジメント階級の台頭/経営戦略/赤の女王と青い海/計画的戦略か、創発的戦略か
第V部 戦略の理論第36〜38章下合理的選択の限界/合理的選択を超えて/ストーリーとスクリプト

上巻は第I部・第II部と第III部の前半4章(第18〜21章)まで。下巻は第III部の後半6章(第22〜27章)から始まり、版元の紹介ではガンジー、キング牧師、大統領選挙戦といった政治・社会運動の題材が続きます。ブックオフの文庫レビューはこの構造を「5部の構成 ①前史②軍事戦略③政治戦略④企業戦略⑤考察(総合)」「上巻は①から③の途中まで」と要約していて、目次と一致する。下巻の書評にも「下巻はまったく戦争とは関係ない公民権運動の戦略やビジネスの戦略などがひたすら論じられており、『戦略』という言葉だけで飛びついた人はかなり読解するのに苦労する」(ブクログ)とあります。

この切れ目の位置が、「下巻だけ読む」という選択肢を生んでいます。声は両方向にある。

  • 下巻だけで読んだ人「下だけ買って一気に読んだが、なかなか面白い。普段、ビジネス書を読まない人には、やや難しいかもしれない」(Amazon文庫下巻レビュー、2021年)。「下巻でいうと、政治(主にアメリカ史)とビジネスに別れていますので、興味のある方だけを読むという選択肢もあり」(Amazon単行本下巻レビュー、2020年)。
  • 第III部で止まった人「個人的に興味があるのは『第I部 戦略の起源』『第II部 力の戦略』あたりまでで、そこまででも500ページ近くあるし、十分参考になった」「あいにく『第III部』以降は、あまり頭に入ってこなかった」(個人ブログの文庫読了記、2021年)。「下巻を読む気がしないので残念」(ブクログ文庫上巻)。

どちらが正しいかを当ブログは判定しません。ただ、止まる場所が第III部(政治・社会運動)に集まり、下巻を単独で読み切る人が実在する、という二つの事実は押さえておく価値があります。軍事の戦略史が目当てなら上巻の第II部までで揃い、経営戦略が目当てなら下巻の後半が本丸。読む目的によって、必要な巻が変わる本です。

経営戦略が出る章|下巻第IV部(第28〜35章)。第30章「経営戦略」と第33章「赤の女王と青い海」

ビジネス書として本書を探している人が読みたいのは、下巻の第IV部「上からの戦略」です。8章分の章題は次のとおり(版元の目次)。

  • 第28章 マネジメント階級の台頭
  • 第29章 ビジネスのビジネス
  • 第30章 経営戦略
  • 第31章 戦争としてのビジネス
  • 第32章 経済学の隆盛
  • 第33章 赤の女王と青い海
  • 第34章 社会学的な取り組み
  • 第35章 計画的戦略か、創発的戦略か

版元の紹介文が第IV部の人物として挙げるのは、テイラー、スローン、フォード、ドラッカー。人物と章番号の対応は版元の紹介に無いので、ここでは章題まで。読者レビューには「ピータードラッカー、マイケル・ポーターなどのビジネス戦略」(ブクログ、上下セット)という言及もあり、版元の紹介に無いポーターの名は、ブクログのセットレビューのほうに挙がっている。第33章の「青い海」はブルー・オーシャンの語で、Amazonの下巻レビューには「最も参考になったのは、"競争を避ける"の項です。"ブルー・オーシャン"を見つけて」という読み方の実例があります。第35章の「計画的戦略か、創発的戦略か」は、章題そのものが対立軸の形になっている。

第IV部にも両方向の声があります。「テイラーの科学的管理から現在までの戦略論がどのように推移してきたのかを整理して理解するという意味では興味深かった」(Amazon下巻レビュー)と、「非常にアカデミックなので知的欲求は満たされるが、現在の経営戦略論を語る上でここまで必要か、と問われれば否である」(同)。実務の道具として経営戦略を学びたいなら、第IV部は「戦略論がどこから来たか」を知る補助線であって、本丸は個別の名著のほうにある、という読み方が両方の声から見えてきます。経営戦略の名著をどの順に読むかは、別記事のほうが詳しい。

関連記事: 経営戦略の名著おすすめ|原理から実務までの読む順番

文庫と単行本とKindleの違い|「一部改訂」の中身は非公開・解説なし・音声版なし

版で迷っている人向けの整理。この本の版差は「分からないこと」を含めて把握しておくのが実用的です。

  • 文庫は「一部改訂」だが、中身は公開されていない国立国会図書館の書誌には「日本経済新聞出版社 2018年刊の一部改訂」、CiNiiには「一部改訂し文庫化」とあるだけで、版元ページにも改訂箇所の説明はありません。文庫の目次に「解説」「文庫版へのまえがき」「訳者あとがき」の項も無い。文庫で新しく足された読み物は、目次上は確認できません。
  • 単行本にも解説・訳者あとがきが無い奥山真司氏の書評(ダイヤモンド・オンライン、2018年)は「日本語版だけの問題だが、最後に訳者の後書きか専門家による解説がない」との指摘。本書の位置づけを補う文章が本の中に無いので、読む前に地図を持っておく意味が大きい。
  • Kindleは2018年配信の1種のみ配信日は単行本の発売と同時期で、商品ページに底本の明示はありません。文庫の「一部改訂」がKindleに反映されているかは不明。文庫版のKindleは存在せず、電子で読むならこの1種です。
  • 音声版が無いAudibleにもaudiobook.jpにも本書はありません(2026年9月時点)。大部の本を「耳で流す」逃げ道が無いので、目で読む前提で版を選ぶことになります。

版の選び方をまとめると、紙で新たに買うなら現行の文庫(上680・下664ページ)、電子は選択肢が1つ。紙の上下で1,100ページを超える本を分冊で持ち歩くより、Kindle(本の長さ表記 上635・下668ページ)に入れておいて、第IV部だけ先に読む、という使い方が現実的です。ビジネス書向けの電子書籍アプリの選び方は、次の記事のほうが詳しい。

関連記事: ビジネス書を読むならどの電子書籍アプリ?目的別に徹底比較

読み終えたら次に読む本|第4章から孫子・君主論へ、第IV部から経営戦略の名著へ

本書は「深掘りしたい人や分野を見つけるため」の本だ、というレビューの言葉どおり、章題から次の一冊に枝分かれします。所持している本を中心にした接続点は次のとおり。

  • 第4章「孫子とマキャベリ」から: 最高の戦略教科書 孫子・君主論(岩波文庫)(いずれも所持)上巻の早い位置で孫子と『君主論』が扱われます。通史で位置を掴んだあと原典に進むなら、この2冊。読み方の段取りは別記事で扱っています。

関連記事: 孫子はビジネス書として読める?最高の戦略教科書とマンガ版の使い分け

関連記事: 君主論は難しい?100分de名著から原典へ進む2段読み

良い戦略、悪い戦略 書影
  • 第IV部から: 良い戦略、悪い戦略(所持)第IV部で「戦略論がどう推移してきたか」を見たあと、現在の戦略論を1冊で押さえるならこの本。第35章の対立軸(計画か創発か)を踏まえて読むと、位置づけが分かりやすい。

関連記事: 良い戦略、悪い戦略はどんな本?診断・方針・行動で読む

  • 第33章「赤の女王と青い海」から: [新版]ブルー・オーシャン戦略(所持)章題の「青い海」と書名が重なる本。章の中身との対応は版元の紹介に無いので、章題の語をたどる接続として挙げておきます。
  • 比較対象: ジョン・ルイス・ギャディス『大戦略論』(未所持・リンクなし)ブクログのレビューが「本書とよく比べられる同時期に出版された」本として挙げている1冊。

同じ版元グループの「世界史」書名では、『会計の世界史』が3部9章・1冊で、こちらは本書と違って文庫がなくマンガ版がある構成です。読み比べるなら次の記事へ。

関連記事: 会計の世界史は難しい?マンガ版と3部9章の構成・文庫はない

まとめ|上巻は戦争と政治、経営戦略は下巻の第28章から

  • 難しさの正体は範囲の広さ5部38章・紙で1,100ページ超の通史。「戦略の本と思ったら歴史の本だった」という期待のずれと、「結論が無い」という声が、レビューで繰り返される止まる理由。
  • 上下の切れ目は第III部の途中上巻=第1〜21章、下巻=第22〜38章。下巻の最初の6章はまだ政治と社会運動で、経営戦略の章題が並ぶのは下巻第IV部(第28〜35章)。
  • 版差は「分からないこと」込みで把握文庫は「一部改訂」だが中身は非公開、解説・訳者あとがきは単行本にも文庫にも無し、Kindleは2018年配信の1種、音声版なし。

経営戦略が目当てなら、下巻を開いて第28章の見出しから読み始める選択肢は、レビューの実例が裏づけています。上巻は「戦略という言葉がどこから来たか」を旧約聖書から追いたくなったときに戻れば足りる。順番を決めるのは、読者の目的です。

戦略の世界史 上 表紙戦略の世界史 下 表紙

『戦略の世界史 戦争・政治・ビジネス』上・下(日本経済新聞出版)

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