会計の世界史は難しい?文庫はマンガ版だけ、時系列が戻る3部9章

会計の世界史は難しい?文庫はマンガ版だけ、時系列が戻る3部9章

「ちょっと話が飛び飛びでわかりにくい部分がそこそこある」。
田中靖浩『会計の世界史』は難しいのか、文庫やマンガ版で済むのか。noteの読了記にあるこの声の一方で、BookLiveには「会計の知識なんてほとんどなくてもすんなり読める」という声もある。会計の本なのに数字は出ない、と版元は言う。それでも424ページの単行本を前にすると、簿記を知らない自分に読み通せるのか、書店サイトで見かけた「文庫」を待つべきか、マンガ版で代わりになるのかと迷う。

先に結論を言うと、この本の「飛び飛び」は読み方の問題ではなく、構成から来ています。3部9章のうち第2部が21世紀まで進んだあと、第3部で19世紀のアメリカに戻る。同じ時代を財務会計と管理会計の2本の軸で2周する作りです。そして文庫は、原作にはありません。2024年に日経ビジネス人文庫になったのはマンガ版だけ。この記事は要約ではなく、買う前・再開前の地図。3部9章の構造、文庫とマンガ版の書誌、止まりやすいと言われている箇所を、版元の目次と読者の声で整理します。

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会計の世界史 表紙

『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』

田中靖浩/日本経済新聞出版(現・日経BP)/単行本 A5判424ページ(2018年9月・版元表記)/文庫なし

Amazonで見る(Kindle版)

目次

  1. 難しいかの結論|数字は出ないが会計用語は出る。止まりやすいのは第1部と第3部
  2. どんな本か|3部9章・単行本424ページ・参考文献174冊。Kindleは446ページ表記のリフロー
  3. 時系列が戻る3部9章|絵画・発明・名曲の三部と、第3部で19世紀アメリカに戻る構造
  4. 文庫はマンガ版だけ|原作の文庫はなく、2024年に日経ビジネス人文庫になったのはマンガ版
  5. マンガ版と原作の違い|176ページ6章の固定レイアウトと、424ページ9章のリフロー
  6. 読み終えたら次に読む本|第5章の1929年から世界大恐慌へ、第9章の先はファイナンス入門へ
  7. まとめ|飛び飛びに見えるのは2周する構成。文庫で読むならマンガ版だけ

難しいかの結論|数字は出ないが会計用語は出る。止まりやすいのは第1部と第3部

簿記や会計の知識がなくても読める設計の本です。ただし版元が言う「数字が出ない」は「会計用語が出ない」とは別で、用語で詰まるという声と、第1部・第3部の物語化に無理を感じるという声が、出典つきで確認できる。全体としては読み物であり、会計を体系的に学ぶ教科書ではない、というのがレビューで繰り返し出てくる位置づけです。

版元の内容紹介はこう書いている。「『会計ギライ』の方を悩ませる、数字および複雑な会計用語は一切出てきません。『世界史ギライ』の方をげんなりさせる、よく知らないカタカナの人や、細かい年号もほとんど出てきません」。『さおだけ屋』シリーズの山田真哉氏もブログで「堅苦しい難しい話を極力少なめにして、面白い雑談でパッケージングしているのが素晴らしい」と評した。

一方で、読者の側から出ている「難しい」の声は、場所がはっきりしています。

  • 会計用語で詰まる「用語の難しさはあれど面白く読めます。難しいところは所々読み飛ばしてしまいました」「それにしても会計用語は覚えづらいです」(noteの読了記)、「簿記の用語がまったく分からないと、ちょっと詰まるところもあるかも」(はてなブログの読了記)。数字は出なくても、簿記・財務諸表の語彙は出てくる、という受け止めです。
  • 第1部の「こじつけ感」「第一部の簿記の誕生は少し古すぎて無理矢理こじつけて物語にしてる感があったが、第二部、第三部は今の会計にも通ずるところがありとても面白かった」(ブクログ)。15世紀イタリアの絵画から入る第1部で、話の運びに引っかかる人がいる。
  • 第3部の「強引さ」「コーポレート・ファイナンスを取りあげた第三部は、物語として読むと少しばかり強引さが目に付く」(BookLiveの長文レビュー)。同じレビューは「本書で会計を学ぶのは無理があるものの、簿記や財務会計、管理会計がどういった背景から生まれたのかが理解できる」とも書いている。
  • 逆の声「会計に馴染みがない人には少し難しいかもしれないが、小ネタを楽しむつもりで読んでみて欲しい」「会計を音楽や戦争、美術など自分たちの身近な話題と絡めてくれるから話が難しくなってきてもぎり耐えれた」(BookLive)。難しさより「話題の接ぎ木」で持たせる本だ、という読み方です。

向かない人もはっきりしています。「会計について本当に学びたいと思ったら、少し物足りない感もあります」(はてなブログ)、「資格勉強にはあまり役立たなかった」(note)。簿記検定や実務の教科書を探している人が選ぶ本ではなく、BookLiveのレビューの言葉を借りれば「休日に読んで引き出しを増やすためのもの」。この位置づけを先に受け入れておくと、用語で止まったときに「読み飛ばして先へ」という判断がしやすくなります。

どんな本か|3部9章・単行本424ページ・参考文献174冊。Kindleは446ページ表記のリフロー

書誌から確認します。著者の田中靖浩氏は1963年三重県四日市市出身、早稲田大学商学部を出て外資系コンサルティング会社などを経た公認会計士で、「笑いが起こる会計講座」の講師や落語家・講談師とのコラボイベントを手がけている人物(版元プロフィール)。本書は2018年9月に日本経済新聞出版社(現・日経BP 日本経済新聞出版)から単行本で出て、版元はマンガ版の紹介文(2021年)で「10万部のロングセラー」と表記している。著者の告知によれば、2021年1月からはNHKカルチャーラジオ「歴史再発見」で『会計と経営を巡る500年の歴史』として全12回の講義にもなりました。

会計の世界史 書影
項目内容(出典)
単行本A5判424ページ・2018年9月27日発売・ISBN 978-4-532-32203-8(版元登録データ)。文庫版は存在しない
KindleAmazonの「本の長さ」表記は446ページ・ファイルサイズ13.3MB。X-Ray有効・Page Flip有効のリフロー型(文字サイズを変えられる)
構成「旅のはじめに」+3部9章+エピローグ。各部3章ずつ、章題は「世紀+舞台+◯◯革命+作品名」の同型
参考文献著者インタビューで「巻末の参考文献を数えましたら174冊」。読者からは「巻末の6ページに渡る参考文献」(ブクログ)
図版版元は「イラストと写真、ひと目でわかるイメージ図が満載」。Kindle版はAmazonにダウンロードに時間がかかる場合がある旨の注記がある
音声版Audible・audiobook.jpとも見当たらない(2026年9月時点)
評価Amazon 4.6(単行本ページ2,786件・Kindleページ1,531件・2026年9月時点)

本記事の筆者が所持しているのはKindle版で、2020年7月に購入したもの(購入当時1,100円。価格は時期により変わります)。紙の版元表記424ページに対し、Kindleの「本の長さ」は446ページと出ます。リフロー換算の表記差で、収録内容が増減しているわけではない。紙の単行本については「本の25%ほどが注釈などをいれるスペース、つまり空白」という指摘(会計史の個人サイト)がある。登場人物が多い本なので、X-Ray(登場人物や用語を一覧できるKindleの機能)が有効になっている点は、電子版を選ぶ理由の一つになります。

時系列が戻る3部9章|絵画・発明・名曲の三部と、第3部で19世紀アメリカに戻る構造

「話が飛び飛び」に見える理由は、目次を並べると分かります。版元公開の目次から、部題と各章の看板を抜き出したのが下の表です。

部章世紀・舞台革命看板
第1部 簿記と会社の誕生「3枚の絵画」第1章15世紀イタリア銀行革命『トビアスと天使』
第2章15世紀イタリア簿記革命『最後の晩餐』
第3章17世紀オランダ会社革命『夜警』
第2部 財務会計の歴史「3つの発明」第4章19世紀イギリス利益革命『蒸気機関車』
第5章20世紀アメリカ投資家革命『蒸気船』
第6章21世紀グローバル国際革命『自動車』
第3部 管理会計とファイナンス「3つの名曲」第7章19世紀アメリカ標準革命『ディキシー』
第8章20世紀アメリカ管理革命『聖者の行進』
第9章21世紀アメリカ価値革命『イエスタデイ』

表の「世紀・舞台」の列を上から追うと、第6章で21世紀まで来たはずの時計が、第7章で19世紀に戻ります。第2部は財務会計(決算書・利益・投資家・国際基準)の軸で19〜21世紀を一周し、第3部は管理会計とファイナンス(原価計算・管理会計・企業価値)の軸で、同じ19〜21世紀をもう一周する。舞台も第1部のイタリア・オランダ、第2部のイギリス・アメリカ・グローバルから、第3部はアメリカだけに絞られます。読んでいて「あれ、時代が戻った」と感じたら、それは読み落としではなく、2周目に入った合図です。

もう一つ、章題の型が全9章で揃っている点も、途中で迷子になったときの手がかりになる。各章の看板は第1部が絵画(レンブラントの『夜警』など)、第2部が発明、第3部が名曲で、版元はこの9つを「『9つの革命』で全体像がわかる」とまとめています。ブクログには「各章の話の構成はワンパターンだが、絵画や音楽などのネタを手を変え品を変えて盛り込み飽きさせない」という声があり、この「ワンパターン」は裏返せば、どの章から開いても同じ読み方で入れるということでもある。

止まりやすいと言われる場所と、この構造を重ねると次のように整理できます。

  • 第1部で引っかかる人15世紀イタリアの絵画からの導入が「こじつけ」に見えるという声(ブクログ)。同じ人が第2部・第3部は「今の会計にも通ずる」と評価しているので、第1部は3章分で終わると知って進むと楽になる。
  • 第7章で時代が戻って戸惑う人目次どおりの2周構造。第6章までの財務会計の話は一度閉じ、第7章から原価計算・管理会計の話として読み直す。
  • 第3部のファイナンスの話で「強引」と感じる人コーポレート・ファイナンスを取り上げた第3部は「物語として読むと少しばかり強引さが目に付く」という声(BookLive)がある部分。とくに第9章は節名に「企業価値とは何か」「投資銀行とファンドのファイナンス」が並び、会計史というより、ファイナンス入門の入口として読む位置づけです。

文庫はマンガ版だけ|原作の文庫はなく、2024年に日経ビジネス人文庫になったのはマンガ版

「会計の世界史 文庫」で書店サイトを引くと商品が出てくるので、原作が文庫になっていると思いやすい。出てくるのは『マンガ 会計の世界史』の文庫版です。原作の『会計の世界史』は、2026年9月時点で単行本とKindle版のみで、文庫はありません(版元登録データ・国立国会図書館の書誌・Amazonの形式一覧に文庫のISBNなし)。

版発売(版元表記)判型・ページ備考
会計の世界史(単行本)2018年9月27日A5判424ページ原作。文庫なし。Kindleはリフロー446ページ表記
マンガ 会計の世界史(単行本)2021年11月16日A5判176ページ田中靖浩 著・星井博文 シナリオ・飛高翔 作画。Kindleは固定レイアウト60.2MB
マンガ 会計の世界史(日経ビジネス人文庫)2024年8月26日文庫判208ページ2021年マンガ単行本の文庫化(版元データの旧版ISBNが9784532324285)。加筆の有無は版元ページに記載なし

整理すると、「文庫で読みたい」の答えは二つに分かれます。原作の文章をそのまま文庫で読む道は現時点では無い。文庫という形で欲しいなら、それはマンガ版の文庫であり、内容は後述のとおり6章に再編集されたものになる。原作を安く小さく持ちたい人にとって現実的なのは、Kindle版をセールやクーポンのタイミングで買う選択肢です。ビジネス書のセールが多いストアの比較は、次の記事で整理しています。

関連記事: 電子書籍のセール・クーポンが多いアプリ徹底比較|お得に買う3選

マンガ版と原作の違い|176ページ6章の固定レイアウトと、424ページ9章のリフロー

マンガ版で代わりになるかは、何を求めるかで変わります。版元の紹介文は「2018年9月刊行『会計の世界史』(日本経済新聞出版)をもとに、マンガ化し再編集」「壮大なストーリーを6編の物語に凝縮」と説明し、想定読者に「どうせ勉強するならマンガがいい、大学生、中高生」を挙げています。原作とは頁数・章数・電子版の形式が違う。

マンガ 会計の世界史 書影
比較軸原作『会計の世界史』『マンガ 会計の世界史』
分量A5判424ページ・3部9章A5判176ページ(文庫208ページ)・6章
章題の型世紀+舞台+◯◯革命+絵画・発明・名曲テーマ+国(「帳簿と持ち株会社 イタリア」など)。絵画・発明・名曲の枠と「◯◯革命」の呼称は章題に無い
Kindleリフロー型・13.3MB・X-Ray有効。スマホでも文字サイズを変えて読める固定レイアウト・60.2MB・X-Ray無効。Amazonの注記では大きな画面の端末向きで、ハイライトや検索は使えない
向く人背景や人物の説明まで読みたい人。Amazonレビューは「どちらか一冊となると通常版がオススメ」まず骨組みだけ掴みたい人・中高生。書評サイトは「簿記などの勉強から会計に触れるより、断然、このマンガから始めた方が良い」

マンガ版の6章が原作のどこに当たるかは、目次の舞台と登場人物から見るかぎり次の対応になります(本文の省略箇所までは確認していないため、あくまで目次上の対応です)。

マンガ版の章(登場人物)目次で見るかぎり対応する原作の章
第1章 帳簿と持ち株会社 イタリア(コジモ・デ・メディチ、ルカ・パチョーリ)第1〜2章(銀行革命・簿記革命)
第2章 株式会社と証券取引所 オランダ第3章(会社革命)
第3章 決算書と監査 イギリス(スティーブンソン、デロイト)第4章(利益革命)
第4章 原価計算と連結 アメリカ(カーネギー、J.P.モルガン)第7章(標準革命)と第5章の一部
第5章 証券市場の改革と国際会計基準 アメリカ(ジョー・ケネディ)第5〜6章(投資家革命・国際革命)
第6章 管理会計とファイナンス アメリカ(ヘンリー・フォード、マッキンゼー)第8〜9章(管理革命・価値革命)

マンガ版は原作の第1部から第3部までを通しで扱っていて、原作で時代が戻る第7章にあたる話は、目次で見るかぎりマンガでは第4章として第5章より前に置かれている。章題の並びは年代順に見え、原作の「2周する」構成は章題には残っていません。原作の飛び飛び感が苦手なら、マンガ版で年代順の骨組みを頭に入れてから原作に戻る手はある。マンガ版の読者にも「この本を読んでもうちょっと興味が湧いたので、文字だけの方もまた読もうと思います」(ブクログ)、「漫画版ではエピソードはわかりやすいですが説明はもう少し詳しくほしいといった物足りなさがあります」(Amazon)という声があり、マンガで終わらず原作へ進む流れが読者側からも出ています。

電子で読むなら端末の相性も一つ。マンガ版のKindleは固定レイアウトで大きな画面向き、原作はリフローで6インチの電子書籍リーダーでも読める。端末選びは次の記事で比較しています。

関連記事: 電子書籍リーダーおすすめ比較|KindleとKoboどっちを選ぶ?

読み終えたら次に読む本|第5章の1929年から世界大恐慌へ、第9章の先はファイナンス入門へ

本書は会計史の入口なので、読み終えると章ごとに「その先」が開きます。筆者の蔵書から、章と対応づけて挙げておきます。

世界大恐慌 書影
  • 第5章「崩壊前夜」の先: 世界大恐慌 1929年に何がおこったか(講談社学術文庫・所持)第5章の節「崩壊前夜」が扱う1929年を、第1章「暗黒の木曜日」から追う1冊。本書でSEC誕生の背景を読んだあとに繋がります。
  • 第9章「企業価値とは何か」の先: ざっくり分かるファイナンス(所持)第3部で「強引」と言われるファイナンスの部分を、入門書として読み直すならここから。
  • 第8章「管理革命」の先: マンガでわかる管理会計(所持)第8章が扱う管理会計を、実務側の入門で。
  • 著者の続編(未所持・書誌のみ)『会計と経営の七〇〇年史 五つの発明による興奮と狂乱』(田中靖浩・ちくま新書・2022年4月・256ページ・版元表記)。同じ著者による新書で、筆者は未所持のためリンクは張っていません。
  • 公会計側から(未所持・書誌のみ)『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール・文春文庫)。本書が企業会計の歴史なのに対し、国家の帳簿(公会計)を扱う本として、個人ブログの比較記事で並べられています。

制度と経済の側から「なぜ国によって豊かさが違うのか」まで広げたい人には、第3部のアメリカの話の先に『国家はなぜ衰退するのか』(上下・所持)があります。上下巻の歩き方は別記事で。

関連記事: 国家はなぜ衰退するのかを今読む|ノーベル賞と上下巻の歩き方

会計の歴史ではなく経済学そのものを名著で辿りたい人は、教養として読み切る順番をまとめた記事へ。

関連記事: 経済学の名著おすすめ|教養で読み切る5冊の順番

まとめ|飛び飛びに見えるのは2周する構成。文庫で読むならマンガ版だけ

  • 難しさの種類数字は出ないが会計用語は出る。止まりやすいと言われるのは第1部の導入と第3部のファイナンス。教科書ではなく読み物として位置づけると読み進めやすい。
  • 3部9章は2周する第2部が財務会計で19〜21世紀を進み、第3部が管理会計・ファイナンスで19世紀アメリカに戻ってもう一周。第7章で時代が戻るのは読み落としではない。
  • 文庫はマンガ版だけ原作は単行本424ページとKindle(446ページ表記・リフロー)のみ。2024年8月に日経ビジネス人文庫になったのは176ページのマンガ版(文庫208ページ・6章・年代順)。

読み始める前に目次の表を一度眺めて、第7章で時計が巻き戻ることだけ頭に入れておく。それだけで「飛び飛び」の印象はかなり変わるはずです。用語で止まったら読み飛ばして次の看板へ。9つの革命が絵画・発明・名曲で並んでいるので、看板だけ追っても全体像は残ります。

会計の世界史 表紙

『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』(日本経済新聞出版)

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