孫子はビジネス書として読める?最高の戦略教科書とマンガ版の使い分け

孫子はビジネス書として読める?最高の戦略教科書とマンガ版の使い分け

「彼を知り己を知れば」は知っている。でも、上司や取引先との駆け引きにどう使えばいいかが分からない。
孫子をビジネス書として読みたい人が書店の棚で見るのは、岩波の原典、守屋洋の『孫子の兵法』、守屋淳の『最高の戦略教科書 孫子』、そのマンガ版。上位の「おすすめ27選」「7選」を読めば「仕事で使うなら守屋淳版」までは分かります。分からないのは、その先です。マンガ版だけで足りるのか。本編を買った人にマンガ版は要るのか。原典はいつ読むのか。

この記事は、同じ守屋淳による本編とマンガ版、そして原典を「入門の難易度順」ではなく「使う場面の違い」で仕分けます。筆者は2021年3月に本編、同年9月にマンガ版をKindleで購入して所持している立場(原典の入門版はその前年に購入)。感想ではなく、構成と場面の違いによる使い分けに絞って書きます。

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最高の戦略教科書 孫子 表紙

『最高の戦略教科書 孫子』

守屋淳/日本経済新聞出版

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結論:仕事で使うなら本編。マンガ版は場面が違う本、原典は後から

先に答えを。孫子を戦略や競争の話として仕事に当てたいなら、守屋淳『最高の戦略教科書 孫子』(本編)。上位のおすすめ記事がほぼ全て「仕事なら最初の1冊」に挙げているとおりで、384ページの2部構成が、原理の整理と実務側からの問いを分けて持っています。

マンガ版は、本編の要約ではない。扱う場面が「上司・同僚・部下・取引先」という職場の人間関係で、戦略というより対人の本です。だから「マンガ版で入門してから本編へ」という難易度の階段ではなく、「対人の場面ならマンガ版、事業や競争の場面なら本編」という場面の違いで選ぶのが正確です。原典は、2冊のどちらかで孫子の言葉を原文で確かめたくなったときに、後から。以下、順に根拠を示します。

最高の戦略教科書 孫子はどんな本か

最高の戦略教科書 孫子 表紙

中国古典研究者の守屋淳氏が2014年に日本経済新聞出版社から刊行した本で、版元が「10万部突破」と帯に掲げ、その後もロングセラーとして読まれています。四六判384ページ。Kindle版があります。

項目内容
刊行2014年1月(日本経済新聞出版社)
分量四六判384ページ
構成I部「『孫子』はそもそも何を問題とし、何を解決しようとしたのか」(第一章〜第十一章)/II部「『孫子』の教えをいかに活用するか」(第十二章〜第二十章)
派生マンガ版(2019年)、図解版。本編そのものの文庫化は確認できていません

構成の要はII部です。I部が「百戦百勝は善の善なる者にあらず」「兵は詭道なり」といった孫子の原理を、当時の戦争の前提から順に整理する部分だとすると、II部は章題そのものが読者の疑問の形をしています。「そもそも人生やビジネスに、戦いなんて必要ないのではないか」「戦略と戦術とはどう違うのか」「弱者はどのように振る舞えばよいのか」。原理を知った後に実務側から湧く問いに、章ごとに答える構成です。レビューで「テーマごとに並べられた孫子」「エッセンスを短時間で確認できる」と言われるのはこの作りを指しています。

一点、書店で混乱しやすいのが著者名。守屋淳氏の父・守屋洋氏にも『孫子の兵法』(知的生きかた文庫)というロングセラーがあり、「守屋 孫子」で検索すると父子の本が混在します。上位のおすすめ記事の中にも両者を取り違えているものがある。本記事で扱うのは息子の守屋淳氏の本です。

マンガ版はどんな本か

マンガ 最高の戦略教科書 孫子 表紙

『マンガ 最高の戦略教科書 孫子』は2019年4月に単行本(160ページ)で出て、2022年4月に日経ビジネス人文庫に入りました。原作は同じ守屋淳氏、シナリオは星野卓也氏、作画はanco氏。版元の紹介文によれば、社長特命で動く「庶務特命課長」の孫武七子が、問題を抱えた社員に孫子の考え方を伝える1話完結型のオムニバスで、マンガ部分と本文解説の4話構成です。

  • 4つの場面Chapter1「上司」に負けない/Chapter2「同僚」に負けない/Chapter3「部下」に負けない/Chapter4「取引先」に負けない。副題は「ビジネスや人生で負けないために」
  • 分量と読了時間9割がマンガで、書評には「約1時間で読み終える」とあります。本編の384ページとは桁が違います
  • 評価が割れる点レビューでは「マンガ部分は分かりやすい。戦争で使っていたものをビジネスに置き換えられている」と評価される一方、「解説部分が読み辛く、マンガのストーリーと微妙に連動していない」「字体やフォントサイズがばらばら」という不満も目立ちます。本編よりレビュー評価の平均が低いのは、この解説部分の作りが理由と見てよさそうです

つまりマンガ版は、孫子を戦略論として学ぶ本ではなく、職場の対人場面に孫子の発想を当てる本です。「上司に負けない」「取引先に負けない」という章題が示すとおり、想定される読者の悩みは事業の競争ではなく、目の前の人間関係にあります。

本編とマンガ版、どっちを買う?両方要る?

2冊を「場面」「分量」「向く人」で並べます。

項目本編マンガ版
扱う場面戦略・競争・組織(事業の話)上司・同僚・部下・取引先(対人の話)
分量384ページ・20章160ページ(文庫は約170〜180ページ)・4話
孫子の原理の説明I部で11章かけて体系的に各話の解説部分で断片的に
向く人戦略書として孫子を押さえたい人。企画・経営・営業職場の人間関係に困っていて、まず1時間で発想を掴みたい人
向かない人原典の解釈と著者の持論の距離が気になる人(レビューに少数の強い批判あり)解説部分に体系を期待する人

「両方要るか」への答えは、場面によります。事業や競争の話に使いたい人は本編だけで足り、マンガ版を足しても得られるのは対人4場面の例だけです。逆に人間関係が悩みの中心なら、マンガ版から入って、体系が欲しくなったときに本編のII部へ進む。同じ著者なので、孫子の言葉の解釈が2冊でぶれないのは、他社のマンガ本から入る場合にはない利点です。

「マンガ版だけで足りるか」には、足りない、と答えておきます。理由は上の表のとおり、原理の説明が各話の解説に分散していて、レビューでもその解説部分の評価が割れているから。マンガ版は入口として機能しますが、孫子を仕事の型として使うには本編のI部が要ります。

読む順番:原典未読はI部から、既読はII部から

本編の読み方は、原典を読んだことがあるかで分かれます。

  1. 原典未読の人:I部第一章から順に。孫子が何を問題にした本かを、当時の戦争の前提込みで整理する部分なので、飛ばすとII部の問いの前提が抜けます
  2. 原典を読んだことがある人:II部第十二章から。原理は知っているので、実務側の問い(戦いは必要か、戦略と戦術の違い、弱者の振る舞い)に直接入れます。I部は確認用に後から
  3. 原文で確かめたくなったら:ビギナーズ・クラシックスの『孫子・三十六計』が、現代語訳と原文を短く並べる入門版です。版の選び方は別記事で扱っています

関連記事: 中国古典はビギナーズ・クラシックスから|孫子・韓非子・老子

音声版について一言。守屋洋氏の『孫子の兵法』と金谷治訳の岩波版『新訂 孫子』はAudibleで配信が確認できますが、守屋淳氏の本編については2026年8月時点で配信を確認できませんでした。耳で聴きたい人は原典側から入ることになります。

購入順の実例と戦略書の棚での位置

筆者の購入履歴を事実として書いておきます。2020年11月にビギナーズ・クラシックスの『孫子・三十六計』(購入当時504円)、2021年3月に本編『最高の戦略教科書 孫子』(購入当時1,710円)、2021年9月にマンガ版(購入当時650円)の順で、いずれもKindle版(価格は時期により変わります)。つまり原典入門版→本編→マンガ版という、上で書いた「マンガ版から入る」とは逆の順番で揃えています。孫子は1冊で済む本ではなく、場面ごとに版を足していく本だ、という一例です。

最後に、戦略書の棚でこの本がどこに置かれるか。孫子が担うのは「原理」で、2500年前に書かれた分、業界や企業の具体的な分析手順は持っていない。分析の道具は大前研一の『企業参謀』が、戦略の良し悪しを判定する型はルメルトの『良い戦略、悪い戦略』が担います。孫子を最初に置くと、後の本で出てくる「戦わずに勝つ位置を選ぶ」という発想の出どころが分かる、という関係です。

関連記事: 企業参謀は古い?大前研一の戦略的思考を今読む価値

孫子はビジネス書として読めるか、という最初の問いには、読める、ただし版を場面で選べば、と答えます。事業と競争なら本編、対人ならマンガ版、原文の確認は原典。経営戦略の名著全体をどの順で読むかは、別記事にまとめています。

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