企業参謀は古い?大前研一の戦略的思考を今読む価値

「1975年に初版が出ているので古すぎるという指摘があるかもしれませんが」。
『企業参謀』のレビュー欄には、この前置きから始まる感想がいくつもあります。半世紀前の本を、今から買って読む意味があるのか。買ってはみたが、1970年代の製造業の事例と回りくどい文章で、I部の途中で手が止まっている。「古い」という不安は、購入前と購入後の両方に立ちはだかります。
この記事は「古い」の中身を3つに分解します。事例は古い、考え方の型は現役、文章は古風。この仕分けを章単位で示し、今も使える章と資料として読む章を切り分けた上で、文庫版・新装版・電子版のどれを選ぶかまで案内します。筆者は2020年1月のKindleセールで新装版を購入して所持している立場。感想ではなく、構成と読み方の整理に絞って書きます。
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目次
結論:事例は古い。考え方の型は現役。古さの正体は3つに分かれる
先に答えを。『企業参謀』は事例が古い本です。これは事実で、擁護のしようがない。ただし、レビューで「古い」と書いている人の多くが、同じ文の後半で「考え方は古びていない」と続けています。半世紀読み継がれ、著者が学長を務めるビジネス・ブレークスルー大学では今も教材に使われている(PRESIDENT Online、2013年)という事実は、後半の評価を裏付けます。
問題は、「古いが古びない」という一言で終わると、どこを読んでどこを飛ばせばよいかが分からないことです。古さの正体は3種類に分かれます。事例の古さ、考え方の型の現役性、そして文章の古風さ。読者が止まる真因は、実は3つ目であることが少なくありません。以下、本の全体像から順に見ていきます。
企業参謀はどんな本か
大前研一氏がマッキンゼー在籍中の若手だった頃に書いた戦略論の原点。正編『企業参謀』が1975年、続編『続・企業参謀』が1977年にプレジデント社から刊行され、1999年の新装版で正・続が1冊に合本されました。現在流通しているのはこの新装版と、その電子版です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原著 | 『企業参謀』1975年/『続・企業参謀』1977年(いずれもプレジデント社) |
| 新装版 | 1999年10月・プレジデント社・約400ページ。正・続の合本 |
| 構成 | I部 戦略的思考とはなにか(全5章)/II部 戦略的経営計画の実際(全4章+附章 先見術) |
| 電子版 | Kindle版あり(本記事の筆者は2020年1月にKindle版を購入) |
I部は「戦略的思考とは何か」を定義し、課題を本質から分解する方法論と、それを企業の中期計画や製品戦略に当てはめる手順を示す部分。II部は続編にあたり、低成長期の環境認識から入って、KFS(成功の鍵)・相対的優位性・新機軸という3つの切り口で企業戦略を組み立てる部分です。タイトルの「参謀」とは、経営者の隣で戦略を考える人のこと。今でいう経営企画やコンサルタントの仕事を、まだその職種名が一般的でなかった時代に書いた本だと考えると位置づけが掴めます。
「古い」の中身を分解する
レビューの語彙を並べると、「古い」は3つの別の不満が混ざっています。
- 1. 事例が古い(事実)登場するのは1970年代の製造業、オイルショック後の経済環境、当時の統計数値。「統計資料などは当然当時のもの」「筆者の時代感にも若干のずれがある」という指摘はそのとおりです。一方で「未来の答え合わせができて楽しい」「この当時に低成長を予見していた」と、古さを別の価値に読み替える声も同じくらいあります。
- 2. 考え方の型は現役(レビューの多数意見)「事例は古いが本筋は色褪せない」「物事の本質をどう捉えるかという方法に古いも新しいもない」。ここで言う型とは、課題を解決策志向の問いに立て直し、原因を集めてグルーピングし、抽象化してから対策に落とす手順のことです。ロジカルシンキングの入門書として今も読める、という評価はこの部分を指しています。
- 3. 文章が古風で読みにくい(止まる真因)「回りくどい言い回しが多い」「話が途中で脱線する」「論点があちこちに飛ぶ」「初見では何が言いたいのか分からない」。実は挫折レビューの多くがここに集中しています。内容が難しいというより、若い著者の文章がまだ整理されていない。これは事例の古さとは別の問題で、対処法も違います(後述の読む順番で扱います)。
つまり「古いから読む価値がない」という判断は、1の事実を3の読みにくさと混同したときに起きます。1は割り切る、2は目当てにする、3は読み方で回避する。この切り分けが、この本を最後まで持っていく前提になります。
今も使える章と、資料として読む章
章ごとに「型として使う」か「時代の記録として読む」かを仕分けると、次のようになります。レビューで名指しされる「1章が至高」「読むべきはII部第3章」という声とも一致します。
| 章 | 中身 | 読み方 |
|---|---|---|
| I部 第1章 戦略的思考入門 | 問題点の摘出と解決のプロセス、イッシュー・ツリーとプロフィット・ツリー、成果を測る尺度(ROS・ROA・ROCE) | 型として使う。本書の核。ここだけでも読む価値がある |
| I部 第2章 企業における戦略的思考 | 中期経営戦略計画の5ステップ、製品ポートフォリオ管理、製品・市場戦略の7ステップ | 型として使う。手順は現役。数値例は当時のもの |
| I部 第3章 国政への応用 | 産業構造論、ニュージーランド沖の日本イカ船団 | 資料として読む。型を国レベルに当てた実演 |
| I部 第4章・第5章 | 戦略的思考を阻害するもの(参謀五戒)、戦略的思考グループの形成 | 短い。参謀五戒は今も引用される |
| II部 第1章・第2章 | 戦略的に考えるということ、「低成長」とはなにか | 資料として読む。1970年代後半の環境認識。飛ばしても第3章は読める |
| II部 第3章 戦略的思考に基づいた企業戦略 | KFSに基づく戦略、相対的優位性、新機軸(戦略的自由度・技術ポートフォリオ) | 型として使う。続編の核。事業を分解してKFSを掴む手順 |
| II部 第4章・附章 | 戦略的計画の核心、先見術 | まとめと補論。最後に通読 |
型の章に共通するのは、「課題を特定する→仮説を立てる→数字で検証する」という流れを、当時の実例に当てはめて追体験させる作りになっていることです。事例は変えられないが、流れは変わらない。ある書評は「模擬的に実践しているパートの事例を取り上げて古くて役に立たないと結論づけないこと」と釘を刺しています。事例は答えではなく、型の練習問題として読む。これが仕分けの基準です。
ちなみに、課題を「解ける問いに立て直す」という発想は、より新しい本では『イシューからはじめよ』が同じ場所を扱っています。企業参謀の第1章が文章の古風さで入りにくいなら、先にそちらで型の輪郭を掴んでから戻る手もあります。
関連記事: イシューからはじめよは難しい?挫折しない読み方と入口
挫折しない読む順番と版の選び方
読む順番は、仕分け表をそのまま順路にします。頭から通読しようとすると、I部第3章のイカ船団やII部第2章の低成長論で1970年代に置き去りにされがちなので、型の章を先に通します。
- I部 第1章:課題の立て方とツリーの使い方。ここで本書の語彙を手に入れる
- I部 第2章:中期計画と製品戦略の手順。数字は読み飛ばしてよい
- II部 第3章:KFS・相対的優位性・新機軸。続編の核に直行する
- 残りの章:時代の記録として、興味のあるところから
文章の古風さへの対処は2つ。1つは、段落の要点を自分の言葉で1行に置き換えながら読むこと(本書の内容そのものが「パッケージの中身を見抜く」練習です)。もう1つは、入門編として編まれた『企業参謀ノート[入門編]』(プレジデント書籍編集部、2012年)を先に見て、図解で骨格を押さえてから本編に入ること。レビューには「併読で原書がとても理解しやすくなった」という声があります。ただし要約版で終えると、本書の価値である「型を実例に当てる追体験」が抜ける。あくまで補助輪、と考えてください。
版の違いも整理しておきます。書店やネットで3種類が並ぶので、ここで迷う人が意外に多い。
| 版 | 収録 | 分量 | 向く人 |
|---|---|---|---|
| 講談社文庫版『企業参謀』(1985年) | 正編のみ(続編は『続・企業参謀』として別巻) | 218ページ | まずI部だけ試したい人。古書中心 |
| プレジデント社 新装版(1999年) | 正・続の合本 | 約400ページ | II部第3章まで通したい人。現行版 |
| Kindle版(新装版) | 同上 | 同上 | 目次ジャンプで型の章だけ拾い読みしたい人。セール対象になりやすい |
正編と続編は役割が違うので、今から買うなら合本の新装版が実用的です。文庫版は正編のみで、続編のKFSの章が入っていません。
電子版なら安く揃う|現代の戦略書との役割分担
筆者が新装版のKindle版を購入したのは2020年1月で、購入当時の価格は437円でした。刊行から年月が経った古典は電子版がセール対象になりやすい。経営の名著を電子で揃えたときの実額は別記事で表にしています(価格は時期により変わります)。
関連記事: 経営の名著はKindleセールで安く揃う|実際の購入価格を公開
最後に、この本を戦略書の棚のどこに置くか。企業参謀が担うのは「考えるための道具」で、戦略の型そのものや、打ち手のつなぎ方は別の本の守備範囲になります。
| 欲しいもの | 本 | 役割 |
|---|---|---|
| 課題を分解して数字で検証する道具 | 企業参謀(本書) | イッシュー・ツリー、5ステップ、KFS。参謀の作業手順 |
| 戦略の良し悪しを判定する型 | 良い戦略、悪い戦略(ルメルト) | 診断→基本方針→行動。目標の羅列を戦略と呼ばない基準 |
| 打ち手の因果のつなぎ方 | ストーリーとしての競争戦略(楠木建) | 打ち手同士の一貫性を評価する。544ページの読み方は別記事 |
1975年の道具で分解し、ルメルトの型で判定し、楠木氏の筋でつなぐ。3冊の役割はきれいに分かれていて、どれか1冊が他を不要にする関係ではありません。企業参謀を「古いから」と外すと、この分業の最初の一段が抜けます。
関連記事: 良い戦略、悪い戦略はどんな本?診断・方針・行動で読む
読む価値があるか、という最初の問いに戻ります。事例の古さを割り切れる人、そして型を実例に当てる練習に付き合える人には、今も読む価値がある本。逆に、最新の事例で戦略を学びたい人、要点だけ短時間で知りたい人には向きません。その場合は上の役割分担表の残り2冊から入るほうが早い。経営戦略の名著全体をどの順で読むかは、別記事にまとめています。
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