良い戦略、悪い戦略はどんな本?診断・方針・行動で読む

「巷で戦略と呼ばれるものの9割は、戦略ではない」。本書の読者レビューに繰り返し出てくる要約です。
中期計画や部門方針を書く側に回ると、目標は並んでいるのに、それが戦略になっている気がしない瞬間があります。売上120%、新規顧客の開拓、DX推進。並べた本人が一番、これは目標の羅列だと分かっている。『良い戦略、悪い戦略』は、その違和感に名前を付ける本です。
この記事では、本書がどんな本か(書誌と3部18章の構成)、なぜ「悪い戦略」の章が日本企業のあるあるに見えるのか、どこから読むか、そして同じ棚の定番『ストーリーとしての競争戦略』とどちらを先に読むかを整理します。筆者は2020年11月にKindle版を購入して所持しています。この記事は感想ではなく、構成と使い方に絞って書きます。
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目次
結論:戦略を「書く」本ではなく「見分ける」本
一言でいえば、本書は戦略の立て方のマニュアルではなく、目の前の計画が戦略になっているかどうかを判定する目を作る本です。著者のリチャード・ルメルトは戦略論の研究者で、本書は一般読者向けに書かれた本です。良い戦略には「カーネル(核)」と呼ぶ基本構造があると述べ、それを診断・基本方針・行動の3要素で定義します。
逆にいうと、「良い戦略はこうすれば立案できる」という手順は書いてありません。読者レビューにも「こうあるべきという指摘はするが、こうすれば作れるとは言わない」という評があり、これは本書の限界というより性格です。手順書を探している人には合わず、自分の計画書を診断したい人には合う。まずこの性格を押さえてから中身に入ります。
良い戦略、悪い戦略はどんな本か
日本語版は2012年6月に日本経済新聞出版社から刊行され、紙で410ページ、Kindle版の表記で421ページ。原著はGood Strategy/Bad Strategyで、翻訳は村井章子氏です。構成は序章と3部18章で、部ごとに役割がはっきり分かれています。
| 部 | 章 | 扱うこと |
|---|---|---|
| 第1部 良い戦略、悪い戦略 | 第1〜5章 | 良い戦略と悪い戦略の違い。悪い戦略の特徴、なぜはびこるか、良い戦略の基本構造(カーネル) |
| 第2部 良い戦略に活かされる強みの源泉 | 第6〜15章 | テコ入れ効果、近い目標、鎖構造、設計、フォーカス、優位性、ダイナミクス、慣性とエントロピーなど、強みの源泉を1章1テーマで事例解説。第15章はNVIDIAの戦略で総合 |
| 第3部 ストラテジストの思考法 | 第16〜18章 | 戦略を科学的仮説として扱う姿勢、思考のテクニック、自分の判断を貫くこと |
分量は400ページ級ですが、読者評では「学術書とは異なり大変読みやすい」「小気味よい文章で飽きない」という声が主流で、『ストーリーとしての競争戦略』のように「長い・冗長」という不満はあまり見かけません。読者評を信じるなら、厚さの割に進む本です。
「悪い戦略」の章があるあるに見える理由
本書の読者レビューで繰り返し出てくるのが、「悪い戦略の具体例が日本企業のあるあるネタで溢れている」という反応です。第1部で示される悪い戦略の特徴を大づかみに言えば、目標が多すぎる一方で行動に結びつく方針が少ないか、まったくない状態。野心的な目標を掲げることと戦略を立てることを取り違えている状態です。
これが刺さるのは、計画書を書く側の多くが「目標を並べること」を自分の仕事だと思い込んでいるからでしょう。売上目標、顧客数、シェア。数字は並ぶが、どの課題に、どの方向で、どんな一貫した行動で臨むかが書いていない。本書はそれを戦略とは呼ばない、と線を引きます。
ここで注意したいのは、本書を「他社の計画をあざ笑う本」として読まないことです。著者が対象にしているのは読者自身の計画書。第1部の型を知ったあとに自分の資料を開くと、診断が抜けている、方針が目標の言い換えになっている、行動が方針とつながっていない、のどれかが見つかることが多いはずです。そう使うための本です。
どこから読むか:第1部で型→第3部で思考法→第2部は辞書的に
3部構成の役割が違うので、頭から通読するより、目的に合わせて順番を変えるほうが実用的です。
- まず第1部(第1〜5章)で型を持つ悪い戦略の特徴と、良い戦略の基本構造(診断→基本方針→行動)。ここだけで本書の判定基準は手に入ります。序章の「手強い敵」は事例の導入なので、急ぐなら第1章から入っても支障ありません。
- 次に第3部(第16〜18章)で思考法へ戦略を仮説として扱い、検証し、判断を貫く姿勢。第1部の型を「自分で使う」ための章なので、事例の前に読んでおくと第2部の見え方が変わります。
- 第2部(第6〜15章)は辞書的に1章1テーマの事例集。自分の計画で足りない強みの源泉(近い目標が無い、フォーカスが無い、など)に対応する章から読み、全部を順に読む必要はありません。
Q. 事例は古くないか?
A. 2012年刊なので、事例の企業状況は当時のものです。レビューには「事例は後付けの生存者バイアスがかかっている」という指摘もあります。第2部を辞書的に扱うのは、この弱点を避ける意味もあります。読むべきは事例の結末ではなく、著者がそこからどの構造を取り出しているかです。
ストーリーとしての競争戦略とどっちを先に読むか
戦略書の入口で本書と並べて迷われるのが、楠木建氏の『ストーリーとしての競争戦略』です。どちらも日本で定番になった戦略書ですが、役割が違います。
| 観点 | 良い戦略、悪い戦略 | ストーリーとしての競争戦略 |
|---|---|---|
| 核になる問い | その計画は戦略の基本構造を持っているか | 打ち手同士が因果でつながった物語になっているか |
| 得られるもの | 診断・基本方針・行動という型と、悪い戦略の判定基準 | 一貫性を強さ・太さ・長さで評価する見方 |
| 分量と読み口 | 約400ページ。読みやすいという評が主流 | 544ページ。前半が長いという評が多い |
| 向く場面 | 計画書を書く・審査する | 事業の打ち手を組み立てる・語る |
筆者の整理では、先に読むのは本書です。型を持ってから楠木氏の本に入ると、あちらの前半で長々と述べられる「戦略とは何ではないか」が、型を壊さずに補う話として読めます。逆順でも成立しますが、その場合は本書で「筋の良いストーリーを計画書にどう落とすか」を確認する読み方になります。
関連記事: ストーリーとしての競争戦略は長い?500ページで挫折しない読み方
向いている人・向かない人と電子書籍・音声版での入手
- 向いている人中期計画・部門方針・事業計画を書く側、または審査する側。目標の羅列と戦略の違いを言葉で説明したい人にも向きます。スタートアップで「戦略がない」と言われて困っている人も同様です。
- 向かない人戦略立案の手順書やテンプレートを探している人。フレームワーク集が欲しい人には、本書は判定基準を示すだけで物足りなく感じます。
入手はKindle版が手軽です。音声版はaudiobook.jpに全42トラックの日本語版があり、第2部の事例章を通勤で聞き、第1部だけKindleで精読する分担も組めます。
なお筆者の手元にあるのは2020年11月に購入したKindle版で、購入当時は1,800円でした(価格は時期により変わります)。
関連記事: オーディオブック比較|Audibleとaudiobook.jpの違いと選び方
戦略書は何冊読んでも、自分の計画書を開かない限り使ったことになりません。本書の価値は、開いたときに「これは診断が抜けている」と言える言葉をくれることにあります。まずは第1部の5章分。そのあとで、手元の計画を1枚、診断してみてください。経営の名著全体の読む順番は別記事にまとめています。
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