ストーリーとしての競争戦略は長い?500ページで挫折しない読み方

「内容はいいが、繰り返しが多く、いたずらに長く読み疲れる」。
『ストーリーとしての競争戦略』のレビュー欄で、この種の声は高評価と同じくらい目立ちます。544ページ、前半は同じ主張の言い換えに見える、240ページを過ぎたあたりからようやく面白くなる。買った人の多くが同じ場所で止まっていて、しかも「後半から読めばいい」とは誰も言いません。前半が後半の伏線になっているからです。
この記事は、長さの正体を章の役割で分解し、前半で止まらない読む順番を組みます。あわせて、この本が「結局どうすればいいか」を教えてくれない本だと著者自身が認めている事実を先に置き、型が欲しい人はどの本に行けばよいかまで案内します。筆者は2025年12月にKindle版を購入して所持しています。この記事は感想ではなく、構成と読み方の設計に絞って書きます。
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目次
結論:長いのは事実。ただし読む順番を変えれば前半で止まらない
先に結論です。この本は長い。四六判544ページで、ビジネス書としては厚い部類です。そして前半に「戦略はストーリーである」という主張を角度を変えて何度も述べる構成なので、要点を早く知りたい人ほど「同じ話の繰り返し」に感じます。
ただし、止まる場所には傾向があります。レビューで目立つのは第1〜2章の途中、240ページ前後までの区間です。ここを「主張の宣言」として短時間で通過し、第7章の骨法10カ条で本書の到達点を先に見てから第3章に戻る。この順番なら、前半の反復は「後半の事例を読むための語彙の準備」に変わります。詳しい順番は後述しますが、まず本の全体像から確認します。
ストーリーとしての競争戦略はどんな本か
一橋ビジネススクールの楠木建氏が2010年に東洋経済新報社から刊行した戦略論で、ビジネス書大賞2011を受賞し、累計30万部超(2026年時点の書評記事による)のロングセラーです。主張は一貫していて、優れた戦略は打ち手の羅列(静止画)ではなく、打ち手同士が因果でつながった物語(動画)として組み立てられている、というもの。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 刊行 | 2010年4月(東洋経済新報社) |
| 分量 | 四六判544ページ |
| 構成 | 全7章。第1章 戦略は「ストーリー」/第2章 競争戦略の基本論理/第3章 静止画から動画へ/第4章 始まりはコンセプト/第5章 「キラーパス」を組み込む/第6章 戦略ストーリーを読解する/第7章 戦略ストーリーの「骨法10カ条」 |
| 電子・音声 | Kindle版あり。Audible版(2020年)・audiobook.jp版あり |
注意したいのは、著者自身がこの本を「どうすれば優れた戦略を作れるか」のハウツーではないと言い切っていることです。刊行後の批判で圧倒的に多かった「結局、どうすりゃいいんだよ」に対し、著者はDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの記事(2012年)で「あきらめが肝心です」と答えています。テンプレートやチェックリストを期待して開くと、長さ以前に目的がずれます。この本が扱うのは、戦略を評価し語るための「筋の良さ」の見方です。
「長い」「繰り返し」と言われる理由
不満の声を整理すると、種類は2つに分かれます。
- 前半が冗長に感じる第1章は「ストーリーとは何ではないか」(アクションリストでも法則でもテンプレートでもない)を列挙しながら主張を固める章で、第2章はポーターのポジショニング論と組織能力を整理する章。どちらも本書独自の話に入る前の地ならしなので、主張を早く知りたい人には遠回りに見えます。
- 要点だけ欲しい人にはストレス本書は事例を長く語ることで「因果のつながり」を体感させる作りです。書評ブログにも「240ページ以降の事例から急に面白くなる。ただし前半で後半の下準備をしているので、後半から読み始めるのはおすすめできない」という指摘があります。
つまり前半は、後半の事例で使う語彙(ポジショニング、組織能力、一貫性の3基準)を用意する区間です。飛ばすと事例が読めなくなる。飛ばすのではなく、役割を知って速度を変えるのが現実的な対処です。
挫折しない読む順番:第1・2・7章→第3章→第4〜6章
筆者が組んだ順番は次のとおりです。章の役割で3グループに分けます。
| 順 | 章 | 役割と読み方 |
|---|---|---|
| 1 | 第1・2章+第7章 | 主張の宣言と到達点。第1章は「何ではないか」の列挙を流し読みで通過し、第2章はポーター論と組織能力の用語だけ押さえる。そのまま第7章の骨法10カ条に飛び、著者が最後に言いたいこと(エンディングから考える、思わず人に話したくなる話をする、など)を先に見る |
| 2 | 第3章 | 本書の心臓部。ストーリーの一貫性を「強さ・太さ・長さ」の3基準で評価する枠組みが出る。ここは飛ばさず精読する |
| 3 | 第4〜6章 | コンセプト(起)→キラーパス(転)→読解の順で、事例を第3章の基準に当てはめながら読む。一見非合理な打ち手がなぜ模倣されにくいか、が第5章の山場 |
この順番の利点は、第7章を先に読むことで「著者は最終的に何を言いたいのか」が分かった状態で第3章以降に入れることです。前半の反復は、到達点を知っていれば「言い換え」ではなく「伏線」として読めます。audiobook.jpのレビューに「前半に張った伏線が後半見事に繋がる構成」とあるのは、通読した人の側から見た同じ構造です。
Q. 第7章だけ読めば足りる?
A. 足りません。骨法10カ条は結論の箇条書きで、なぜそうなるかの論理は第3〜6章にあります。先に見るのは道しるべとしてで、それだけで本書を読んだことにはならないと考えてください。
電子書籍・音声版での読み方
544ページを紙で持ち歩くのは現実的ではないので、筆者はKindle版で所持しています(2025年12月購入)。この本に限っては、電子版の利点が読み方に直結します。
- 目次ジャンプで章の順番を入れ替えやすい上の読む順番は章を行き来するので、目次から飛べる電子版のほうが紙より実行しやすい。
- 第3章の3基準をハイライトして事例章で参照する強さ・太さ・長さの定義をハイライトしておくと、第4〜6章の事例を読むときにすぐ戻れます。
- 音声版で通す選択肢Audible版(2020年)とaudiobook.jp版があります。事例が長い本は音声と相性がよく、通勤で第4〜6章を聞き、Kindleで第3章だけ精読する分担も組めます。
関連記事: オーディオブック比較|Audibleとaudiobook.jpの違いと選び方
型が欲しい人はどの本へ|他の戦略書との役割分担
ここまで読んで「やはり自分は型が欲しい」と思った人は、本書を無理に読み切るより、役割の違う本を先に置くほうが早いことがあります。戦略書の棚で本書が担うのは「打ち手の因果をどうつなぐか」で、隣に置くべき本はそれぞれ別の役割を持っています。
| 欲しいもの | 本 | 役割 |
|---|---|---|
| 戦略の「型」と良し悪しの判定基準 | 良い戦略、悪い戦略(ルメルト) | 診断→基本方針→行動という基本構造。目標の羅列を戦略と呼ばない基準 |
| 因果のつなぎ方・語り方 | ストーリーとしての競争戦略(本書) | 打ち手同士の一貫性を強さ・太さ・長さで評価する |
| 考えるための道具 | 企業参謀(大前研一) | 戦略的思考の手順。文庫落ちした古典で電子版も安い |
本書を先に読んだ人がルメルトで確認すべきなのは、筋の良いストーリーを計画書の形(診断・方針・行動)に落とせているか、という一点です。型が先か、筋が先か。どちらから入ってもよいので、自分に足りない側から手に取ってください。
関連記事: 良い戦略、悪い戦略はどんな本?診断・方針・行動で読む
長い本を読み切るコツは、根性ではなく順番です。第7章の到達点を先に見て、第3章の3基準を手に入れてから、事例の山に入る。そこまで来れば、高評価側のレビューにある「読み返すたび理解が深まる」という声の意味が分かる位置に立てます。経営の名著全体の読む順番は別記事にまとめています。
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