起業のファイナンスは難しい?増補改訂版で変わった章と読む順番

「弁護士でもないのに法律論を長々と述べ、非常に読みづらかった」。
磯崎哲也『起業のファイナンス 増補改訂版』は難しいのか、初版と何が変わったのか。Amazonにはこの星3の声と並んで「専門用語も必ず説明があったので、スラスラ読めました」という声もある。会社の課題図書で、あるいはスタートアップへの転職や支援業務で勧められて、簿記も会社法も未学習のまま手に取ろうとしている。中古で初版が安く出ていて、増補改訂版とどちらを買うかで迷う。2015年刊なので、その後の改正で古くなっていないかも気になる。
先に答えを言うと、初版と増補改訂版で章題が違うのは2か所だけ。第8章の改題と第9章の新設で、第1〜7章の章題は同じです。ただし版元は「全編を大幅に書き換えました」と書いている。専門的だと言われる位置は第5章と第7〜8章に集中し、刊行後に制度が変わった章もその3か所と第9章に重なる。この記事は要約ではなく、買う前・買い直す前の地図。版元と著者ブログの一次情報、国立国会図書館の書誌、法務省・国税庁の改正年、読者の声を出典つきで並べます。
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目次
- 難しいかの結論|「読破難易度:低」と「法律論が長い」が並ぶ本。専門的と言われるのは第5章と第7〜8章
- どんな本か|日本実業出版社・2015年1月・序章+9章・378ページ。Kindleは431ページ表記のリフロー
- 初版と増補改訂版で変わった章|章題の差は第8章の改題と第9章の新設だけ、本文は「全編を大幅に書き換え」
- 2015年以降に制度が変わった章|第5章・第7〜8章・第9章を読むときの前提
- 止まりやすい位置と前提知識|第5章・第7〜8章に集中する声と、前に読むなら会計とファイナンスの入門書
- 応用編との読む順番と次に読む本|著者「応用編」・版元「続編」・実務家「入門編→中級編」
- まとめ|目次の差は2か所、専門的なのは第5章と第7〜8章、次は応用編
難しいかの結論|「読破難易度:低」と「法律論が長い」が並ぶ本。専門的と言われるのは第5章と第7〜8章
簿記や会社法の知識がなくても読み始められる本ですが、「全章が同じ密度」ではありません。読者の声を章に重ねると、専門的だと言われる位置は第5章「ストックオプションを活用する」と第7章「投資契約と投資家との交渉」・第8章「優先株式のすすめ」に集中している。第1〜4章と第6章について「難しい」と書いた声は、今回の調べでは見当たらなかった。
読みやすい側の声と、読みづらい側の声を、どちらも原文で並べます。どちらが正しいかを当ブログは裁定しません。
- 読みやすいという声「■読破難易度:低(ファイナンスの知見がない人、特に事業家向けにファイナンスの世界観をまとめた本なのでとても分かりやすいです。)」(はてなブログ・2021年)、「専門書はわかりにくく、難解な言葉で書かれているのかなと思ったのですが、文章がわかりやすく、専門用語も必ず説明があったので、スラスラ読めました。」(Amazon・単行本)、「370ページぐらいのボリュームとなりますが、本当に読みやすいのであっという間です。」(Amazon・単行本・2025年)
- 読みづらい・専門的すぎるという声「弁護士でもないのに法律論を長々と述べ、非常に読みづらかった。」(Amazon・Kindle版・星3・2024年)、「ほかの項目と比べてストックオプションと優先株式がやや詳述かつ専門的すぎる感はあるが、わかりやすいので起業の際には初めに読んでおくと良いだろう。」(ブックオフ)、第5章の読書メモの末尾に「※その他の細かい話は、専門的すぎたので一旦割愛」(note・2021年)
- 誰向けかについての声「起業に興味があったので読んでみた。難しいかと思ったが、全体を通してわかりやすかった。ただ、スモールビジネス向けではなくて、完全に大企業を目指すスタートアップ向けです。」(Amazon・Kindle版・2024年)、初版には「起業家が資金調達のために読もうと思うと、どこまでも読んでも見当たりません。」(Amazon・初版・星3・2013年)
「法律論」がどの章を指すかはレビューに書かれていない。投資契約と優先株式を扱う第7〜8章を指すと推定できますが、章の特定は当ブログの推定です。目次事実として言えるのは、専門的と名指しされる章がストックオプション・投資契約・優先株式の3つに限られること。そして「スポット的に必要な箇所を読みこむ」「辞書として使用」という読み方が読者側から出ていること。全章を通読する本というより、必要な章から入る本として買う人が一定数いる、というのが出典から読める範囲です。
どんな本か|日本実業出版社・2015年1月・序章+9章・378ページ。Kindleは431ページ表記のリフロー
書誌から確認します。著者の磯崎哲也氏は公認会計士・税理士で、版元の著者紹介(2015年時点)によれば1984年早稲田大学政治経済学部卒、長銀総合研究所を経て1998年からベンチャーの世界へ。カブドットコム証券社外取締役、ミクシィ社外監査役、中央大学法科大学院兼任講師などを務め、ブログ・メルマガ「isologue」の書き手として知られる。本書は2010年9月に初版が出て、2015年1月に増補改訂版が刊行された。著者ブログは「おかげさまで前著は約3万部をご購入いただきました。」(2015年1月22日)と書き、版元の内容紹介は「2010年の初版発行以来、起業家はもちろん、起業家をサポートする人からもご好評をいただいた同名図書の増補改訂版!」と位置づけている。楽天ブックスと紀伊國屋の「BOOK」データベースには「あの『起業家のバイブル』が全面改訂!」とある。
| 項目 | 内容(出典) |
|---|---|
| 紙 | 日本実業出版社・A5判並製・2015年1月15日発売(版元サイト。版元ドットコムの書店発売日は1月16日)・ISBN 978-4-534-05245-2 |
| ページ数 | 378ページ(国立国会図書館・Amazon・楽天ブックス・読書メーター表記)。版元サイトは352ページ表記で、理由は不明。読者レビューが本文を「328頁」「p369」で引用しているので、本記事は378ページを基準にする |
| Kindle | Amazonの「本の長さ」表記は431ページ・12.1MB・X-Ray有効・リフロー型(固定レイアウトの注記なし)。ファイルサイズが大きいため「3G接続でダウンロードすることができません」の注記あり |
| 構成 | 序章+第1章〜第9章+おわりに(版元目次)。国立国会図書館の書誌に「文献あり」「索引あり」。Amazonレビューにも「本書の巻末に、参考図書があるのも良いですね。」 |
| 刷 | ブクログのレビューに「私が手にした第15刷は2021年10月発行。」。版元サイトに掲載・販売中(2026年9月時点)。再改訂・第3版は2026年9月時点で確認できない |
| 音声版 | audiobook.jpに『起業のファイナンス』の音声版あり(8時間59分)。初版・増補改訂版のどちらに準拠するかは未確認。Audibleは検索0件(2026年9月時点) |
| 評価 | Amazon 4.4(495件・2026年9月時点)。星5が61%、星3が10%。初版は4.0(47件) |
本記事の筆者が所持しているのはKindle版で、2020年12月に購入したもの(購入当時2,070円。価格は時期により変わります)。紙の378ページに対し、Kindleの「本の長さ」は431ページと出る。リフロー型の「本の長さ」表記で、紙の頁数とは数え方が異なる。X-Rayが使えるので、第5章や第8章で用語が分からなくなったときに初出へ戻る往復は電子版の方が楽です。12.1MBはAmazonが3G接続でのダウンロード不可の注記を出す大きさで、6インチ端末で図を読むかタブレットで読むかは相性がある。端末の比較は別記事に任せます。
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初版と増補改訂版で変わった章|章題の差は第8章の改題と第9章の新設だけ、本文は「全編を大幅に書き換え」
「増補改訂版」で検索する人の多くは、初版を持っているか、中古で安い初版を見つけた人でしょう。まず目次の差を、版元ドットコムに残る初版の目次と、版元サイトの増補改訂版の目次で1対1に並べます。
| 章 | 初版(2010年9月・334ページ) | 増補改訂版(2015年1月・378ページ) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 序章 | なぜ今「ベンチャー」なのか? | なぜ今「ベンチャー」なのか? | 同一 |
| 第1章 | ベンチャーファイナンスの全体像 | 同 | 著者ブログ「統計なども最新のものに入れ替える」 |
| 第2章 | 会社の始め方 | 同 | |
| 第3章 | 事業計画の作り方 | 同 | |
| 第4章 | 企業価値とは何か | 企業価値とは何か? | 末尾に「?」が付いたのみ |
| 第5章 | ストックオプションを活用する | 同 | 制度改定あり(次節) |
| 第6章 | 資本政策の作り方 | 同 | 著者ブログ「資本政策表もエンジェル・ラウンドを付け足したものに変更」 |
| 第7章 | 投資契約と投資家との交渉 | 同 | |
| 第8章 | 種類株式のすすめ | 優先株式のすすめ | 改題 |
| 第9章 | (なし) | ベンチャーのコーポレートガバナンス | 新設 |
| おわりに | あり | あり |
章題で変わったのは第8章と第9章の2か所。ここだけ見ると小さな改訂に見えますが、版元の電子版紹介文は次のように書いています。「そこで、2015年施行の改正会社法も反映させた、ベンチャーのコーポレートガバナンスを解説する章を新たに書き足すなど、起業にまつわる最新の情報を盛り込み、全編を大幅に書き換えました。」目次の差が2か所であることと、本文が全編書き換えであることは別の話で、混同しない方がいい。
著者本人の説明は、著者ブログ「isologue」の2015年1月22日の記事にある。「前著を書いたのは、「このままでは日本のベンチャーは滅びてしまうのではないか」という暗い時期でしたが、現在は毎日ベンチャー関係のイベントがどこかで開かれているほど起業が活況を呈してきています。エンジェル投資も当時はまださほど目立っていませんでしたが、今では普通になってきましたので、 資本政策表もエンジェル・ラウンドを付け足したものに変更し、統計なども最新のものに入れ替えるなど、全体的に大幅に書き直しを行いました。」そして新設の第9章については、次の5項目をまとめたと書いている。
- 「株式によるファイナンスとコーポレートガバナンスが表裏一体であること」
- 「株主と経営者の利害を一致させるのがコーポレートガバナンスであること」
- 「そのために投資契約や優先株式がどう使われるか」
- 「米国と日本のベンチャーのガバナンスはどこが違うか」
- 「改正会社法で、上場に向けた取締役会や役員構成はどう設計していけばいいか」
第三者の裏取りも2つある。公認会計士の岩谷誠治氏のブログ(2015年1月27日。巻末の参考書籍に自著が推薦されている旨を本人が明記している)は「既に前作をお持ちの方は、改訂版を購入するか否かで逡巡されていると思います。」と書いたうえで、「今回の改訂版では、新たに第9章「ベンチャーのコーポレートガバナンス」が追加されており、会社の機関設計のあり方について解説しています。」と第9章の追加を確認している。もう1つは著者が取締役を務める会社PLAIDの社員による書評(2015年2月16日)で、「その熱い語り口、そしてベンチャー・ファイナンスの基礎的事項に関するわかりやすい記述は、以前と全く変わっていません。」「既に増補改訂前の本をかった人も必読だと思います。」とある。後者は利害関係者の評価として読んでください。
初版所持者が買い直すかどうかの判断材料は、以上の事実の列挙までにします。第9章の有無。第8章の改題。資本政策表のエンジェル・ラウンド追加と統計の更新。2015年施行の改正会社法の反映。334ページから378ページへ。Amazonの初版ページには「この商品には新版があります」の案内が出ていて、初版の版元ページは掲載を終了している(2026年9月時点)。初版は当ブログでは未所持で、書誌は国立国会図書館と版元ドットコムの表記による。
2015年以降に制度が変わった章|第5章・第7〜8章・第9章を読むときの前提
Amazonには「増補改訂版の本書の発行は2015年である。その後、会社法や税法の改正があったので、最新の情報を網羅しているわけではない。しかし、非常に有用な参考書である。」(2022年・単行本)という声がある。この「その後の改正」がどの章に関わるかを、法務省・国税庁・経済産業省・Coral Capitalの一次情報で位置と年だけ整理します。制度の中身はこの記事では書きません。
| 章 | 関わる制度 | 本書との時系列(一次情報) |
|---|---|---|
| 第5章 ストックオプションを活用する | 税制適格ストックオプションの要件 | 本書の記述は2015年時点。その後、令和5年度・令和6年度の税制改正で要件が改正された(国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」2024年11月13日改訂。経済産業省のガイダンスに2024年4月1日施行の改正あり) |
| 第7章 投資契約と投資家との交渉/第8章 優先株式のすすめ | シード段階の投資契約のひな型 J-KISS | 本書刊行(2015年1月)の後、2016年4月に公開。Coral Capitalの説明では「Coral Capitalの前身である500 Startups Japanが2016年4月にバージョン1.0を公開しました。最新版は2022年4月に公開されたバージョン2.0です。」本書はJ-KISSを扱っていない |
| 第9章 ベンチャーのコーポレートガバナンス | 会社法改正(2回) | 平成26年改正会社法(2015年5月1日施行)は本書に反映済み(版元文「2015年施行の改正会社法も反映」)。令和元年改正会社法(2021年3月1日施行)は刊行後で、本書には入っていない |
今回の調べで刊行後の改正を特定できたのは第5章・第7〜8章・第9章に関わる3件で、第1〜4章と第6章については該当する改正を挙げていない。読むときに「この後に変わった」を頭に置くのは、まずこの3か所。専門的だと言われる章と、制度が動いた章が、ほぼ同じ場所に重なっている。これは偶然ではなく、税制と会社法に直結する章ほど記述が法務寄りになり、改正の影響も受けるという構造だと読めます。
著者自身は2022年に、応用編『起業のエクイティ・ファイナンス』の増補改訂版について「その後2016年に「J-KISS」というconvertible equityが登場し、ひな型が一般にも公開されて、現在ではデファクト・スタンダード的に使われるようになっています」と書いている(ダイヤモンド・オンライン・2022年7月16日)。この発言は応用編についてのもので、『起業のファイナンス』本体の再改訂には触れていない。本体の第3版は2026年9月時点で版元サイト・著者ブログ・国立国会図書館のいずれにも確認できません。
止まりやすい位置と前提知識|第5章・第7〜8章に集中する声と、前に読むなら会計とファイナンスの入門書
前提知識の争点は「会計」と「会社法」の2つに分かれます。会計側は、初版の書評でHONZの村上浩氏が「私のように理系でちゃんと会計を学んでいない人にも非常に分かり易い。著者は必要のない細部を省いて全体像を伝えるのが非常に上手い!」と書く一方、岩谷氏は「評書が、若干、難しく感じられた方は…会計の基本を身に付けることを(強く)お勧めします。」(中略は当ブログ。省略部分は岩谷氏の自著の書名)と、読んでみて難しければ会計を挟む順番を勧めている。はてなブログの読者は「※ファイナンス初心者の方は「グロービスMBAファイナンス」を読んで概観を掴んでから本書を読むとぐっと理解が深まると思うのでオススメです。」と書き、同じ記事で「「コーポレートファイナンス 戦略と実践」を読み、スタートアップに纏わる資金調達について興味関心を持ち理解を深めたいと思ったので」と本書に来た経路を記している。
逆に、会計の本だと思って敬遠していた読者の声もある。「正直読む前はもっと会計によせた本なのかなと、あんまり読む気がしなかったのだが、実際に読んでみると、聞いたことはあるがよく分かっていない用語をとても分かりやすく説明してくれている。何が適切なのかは分からないけど、結構タイトルで損してる感ある。」(ブクログ・2019年)。読書メーターにも「財務諸表的なものよりもベンチャーファイナンスの全体像などがよくわかります。」とあり、財務諸表の本ではないという受け止めは複数で一致しています。
止まる位置の声を章に重ねると、次の3段階になる。
- 序章〜第4章・第6章は「難しい」の声が見当たらない初版レビューのHONZが「P.65の日本の資金循環マンダラは分かり易い」と第1章付近の図を挙げ、Amazonには「全体の構成や章立ても、資金調達の意思決定プロセスや段取りの想定の筋道どおりであり」(初版・2010年)とある。
- 第5章で「専門的すぎる」が最初に出る章ごとに読書メモを公開しているnoteの記事は、第5章のメモを「※その他の細かい話は、専門的すぎたので一旦割愛」で締めている。ブックオフのレビューの「ストックオプションと優先株式がやや詳述かつ専門的すぎる感」の前半もここ。
- 第7〜8章が「法律論」と呼ばれる位置(推定)「弁護士でもないのに法律論を長々と述べ」の声は章を特定していないが、投資契約と優先株式を扱うこの2章を指すと当ブログは推定している。同じ2章を「特に、ストックオプションと優先株式を取り扱った章は秀逸である。」(Amazon・2022年)と評価する声もあり、同じ章が長所にも短所にも挙がる。
読み方については「情報量が多く、消化するのには時間がかかると思いますので、いきなり全てを読む必要はないと思います。スポット的に必要な箇所を読みこむだけでも十分購入する価値がある一冊だと思いました。」(note・2025年・原文ママ)という声があり、第5章や第7〜8章で止まったら第9章の前に飛ばして戻る読み方も、この本では想定内と言えそうです。
前に読むなら何か。著者本人が「会計を先に読め」と明言した記録は今回の調べでは見つからなかったので、以下は読者推奨と当ブログの蔵書から組んだ順番です。ファイナンスの語彙を一度ゼロから通しておきたい人には、筆者の蔵書では『ざっくり分かるファイナンス』(石野雄一・光文社新書・所持)が薄くて前段に置きやすい。どの章で止まるかは別記事で整理しています。
関連記事: ざっくり分かるファイナンスは難しい?超ざっくりとの違いと止まる章
岩谷氏の言う「会計の基本」を先に押さえるなら、『増補版 財務3表一体理解法』(國貞克則・朝日新書・所持)が候補。新版との違いは別記事にまとめました。
関連記事: 財務3表一体理解法は難しい?新版と増補改訂版の違いと読む順番
応用編との読む順番と次に読む本|著者「応用編」・版元「続編」・実務家「入門編→中級編」
書店で本書の隣に並ぶ『起業のエクイティ・ファイナンス』(ダイヤモンド社)は、著者・版元・実務家の言葉がすべて「本書の後」で一致している。著者ブログは「昨年、この本の応用編である「起業のエクイティ・ファイナンス」という本も出しました」(2015年1月22日)と「応用編」と呼び、版元ダイヤモンド社は「『起業のファイナンス』の続編」「姉妹書」と表記する。実務家側では、スタートアップM&Aの実務家が「①起業のファイナンス 入門編的な位置付けです。スタートアップ資本政策について、イロハのイです。②起業のエクイティ・ファイナンス 中級編的な位置付けです。弊社では入社前に必ず読んで頂きます。」(note・2025年)、別の実務家が「続編の「起業のエクイティ・ファイナンス」(赤い方)はちょっとマニアックな内容も含まれますがこちらも必読です。」(note・2020年)と書いている。
刊行順で見ると、応用編の方が先に出て、本書の増補改訂の方が後、という順番になる点は押さえておきたい。
| 刊行 | 書名 | 版元・ページ数(出典) | 当ブログの所持 |
|---|---|---|---|
| 2010年9月 | 起業のファイナンス(初版) | 日本実業出版社・334ページ(国立国会図書館) | 未所持・書誌のみ |
| 2014年7月 | 起業のエクイティ・ファイナンス(初版・著者は「初版時の赤いカバー」と呼ぶ) | ダイヤモンド社・421ページ(国立国会図書館・版元ドットコム) | 未所持・書誌のみ |
| 2015年1月 | 起業のファイナンス 増補改訂版 | 日本実業出版社・378ページ(国立国会図書館。版元サイトは352ページ表記) | Kindle版所持(2020年12月購入) |
| 2022年7月 | 増補改訂版 起業のエクイティ・ファイナンス(著者の呼称は「青版」) | ダイヤモンド社・508ページ(版元表記。国立国会図書館は489ページ) | 未所持・書誌のみ |
応用編に進むなら2022年の増補改訂版(青版)が現行で、著者はそちらで「初版のすべての文章や図表を見直し、その大半を書き直す」と説明している。青版の序章の題は「劇的に変化する日本のスタートアップ生態系」で、本書の序章「なぜ今「ベンチャー」なのか?」の7年後の続きという位置づけになる。
スタートアップ側ではなく、ファイナンスの教科書側に進みたい人には、筆者の蔵書では『コーポレートファイナンス 戦略と実践』(田中慎一・保田隆明・ダイヤモンド社・所持)が候補です。第11章がベンチャーファイナンスの章で、本書で扱った領域を教科書の側から見直せる。先に挙げたはてなブログの読者は、この教科書を読んでから本書に来た。独学できるかどうかは次の記事で。
関連記事: コーポレートファイナンス 戦略と実践は独学できる?前に読む2冊
本書は起業の「お金」の側面に絞った本なので、事業の作り方や組織の本と組み合わせて読む人が多い。起業の時間軸で並べたスタートアップの名著の順番は、次の記事で整理しています。
関連記事: スタートアップの名著おすすめ|起業の時間軸で読む6冊の順番
電子で読む場合、ビジネス書は読み放題サービスの対象になっていることもありますが、対象は時期で入れ替わる。本書が対象かどうかはここには書かず、各サービスの探し方と違いを比較記事に任せます。
関連記事: 電子書籍の読み放題サブスク比較|Kindle Unlimited・楽天マガジン・シーモアの違い
まとめ|目次の差は2か所、専門的なのは第5章と第7〜8章、次は応用編
- 難しさの場所「読破難易度:低」「専門用語も必ず説明」と「法律論が長い」「専門的すぎる」は同じ本への声で、後者が指すのは第5章(ストックオプション)と第7〜8章(投資契約・優先株式)。第1〜4章・第6章に「難しい」の声は見当たらない。対象は「大企業を目指すスタートアップ向け」との受け止め。
- 増補改訂版で変わった章章題の差は第8章の改題(種類株式→優先株式)と第9章「ベンチャーのコーポレートガバナンス」の新設の2か所。本文は版元文で「全編を大幅に書き換え」。334ページから378ページ(国立国会図書館表記)へ。
- 2015年以降に動いた章第5章は税制改正(2023・2024年度)、第7〜8章の後に J-KISS(2016年4月)、第9章の後に会社法改正(2021年3月施行)。読むときはその前提で。
- 読む順番前に置くなら会計かファイナンスの薄い入門書(読者推奨・著者明言なし)。後は著者の言う「応用編」『起業のエクイティ・ファイナンス』の2022年増補改訂版か、教科書側の『コーポレートファイナンス 戦略と実践』第11章。
「難しい」の正体は、本全体の難度というより、税制と会社法に触れる3つの章の密度の話。そこで止まったら「スポット的に必要な箇所を読みこむ」という読者の読み方に切り替えて、第9章まで進んでから戻る。初版を持っている人は、第9章の有無と第8章の改題、そして制度が動いた3か所が、買い直しの判断材料になる。
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