THE RHETORICは伝える力ではなく伝える技術?意味と弁論術の関係

「人生の武器としての伝える力」で探しても、目当ての本が出てこない。
その本はおそらく『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』だ。書名の最後は「力」ではなく「技術」。この記事では版元・国立国会図書館・書店の一次資料で、似た書名の本との見分け方、レトリックの意味とアリストテレス『弁論術』との関係、買う前に知っておきたい本の形を整理する。
書誌と版元の紹介文をもとに、勧められた本がどれかを確かめ、紙と電子のどちらで手に入るかまで判断できるようにした。当ブログは2021年6月に本書のKindle版を購入している。
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THE RHETORICはどんな本か
米国の作家ジェイ・ハインリックス氏の本を、多賀谷正子氏が訳したものだ。版元はポプラ社で、2018年4月に四六判の単行本として出ている。ページ数は版元の表記で559ページ、Amazonと国立国会図書館の記録では557ページ。
正式な書名は『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』。国立国会図書館の読みは「ザ レトリック」で、分類は件名「説得(心理学)」になっている。話し方の本というより、説得の本として扱われているわけだ。
版元ページの惹句は「ハーバード大学の必読図書トップ10に選出!」「全米ベストセラー」。紹介文では、上司の説得、長い会議の終わらせ方、家庭での会話といった日常の場面で使う「100の技法」を、ユーモアを交えて解説する本とされている。巻末に「実践編&技法一覧」も収録されている、というのが版元の説明だ。
書店データベースの著者紹介では、ミドルベリー大学教授としてレトリックと演説の授業を担当した人物とされている。2025年にはSBクリエイティブから2冊目の邦訳も出ている(後の節で扱う)。
「伝える力」ではなく「伝える技術」
先に答えを書くと、「人生の武器としての伝える力」という書名の本は見つからなかった。Googleの検索候補には「the rhetoric 人生の武器としての伝える力」が出てくるので、うろ覚えで探す人が一定数いるのだろう。
取り違えは検索する人だけのものではない。ある書籍紹介サイトのおすすめ本リストでは、本書が「THE RHETORIC 人生の武器としての伝える力」と表記され、「伝える力と題名になっていますが」と紹介されていた(同じ運営者の別記事では正しく「伝える技術」と書かれている)。
ややこしいのは、「伝える力」が書名の本が別に実在することだ。検索候補にも「池上彰 本 伝える力」が並ぶ。
| 書名 | 著者 | 版元・刊行 | 形・分量 |
|---|---|---|---|
| THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術 | ジェイ・ハインリックス(多賀谷正子 訳) | ポプラ社・2018年4月 | 四六判単行本・559ページ |
| 伝える力 | 池上彰 | PHP研究所(PHPビジネス新書)・2007年4月 | 新書・205ページ |
| 東大物理学者が教える「伝える力」の鍛え方 | 上田正仁 | PHP研究所 | 書名に「伝える力」を含む別の本 |
見分けるなら、分量がいちばん早い。本書は500ページを超える単行本で、池上彰氏の『伝える力』は200ページほどの新書。著者が日本人か、訳者の名前があるかでも区別がつく。勧められたのが「ハーバードの必読書」「アリストテレス」といった言葉と一緒だったなら、本書のほうだと考えてよさそうだ。
レトリックの意味とアリストテレス『弁論術』の関係
レトリック(rhetoric)は、日本語では弁論術・修辞学と訳される言葉だ。アリストテレスの著作『弁論術』は、岩波文庫でも光文社古典新訳文庫でもこの書名で出ている。
では本書は『弁論術』の解説書なのか。版元の紹介文が書いているのは「アリストテレス、リンカーンからオバマまで2400年にわたり、世界のリーダーたちが使っているレトリック」という範囲までだ。アリストテレスを源流として挙げてはいるが、『弁論術』の解説書や現代語訳だとは書いていない。
- 版元(ポプラ社)の紹介アリストテレスからオバマまで、2400年にわたって使われてきたレトリックを日常の場面に持ち込む本、という位置づけ。
- 書店データベースの紹介文「人柄」+「論理」+「感情」で相手を共感させ「イエス」を引き出す、アリストテレス、リンカーンからホームズまで歴代の達人たちに学ぶ、という言い方。
- 著者の代表作の英語の副題SBクリエイティブの著者紹介は、著者を「全米60万部のベストセラー『Thank You for Arguing』の著者」としている。その英語版の副題は「What Aristotle, Lincoln, and Homer Simpson Can Teach Us About the Art of Persuasion」で、アリストテレスの名前が最初に来る。
書店データベースの「人柄・論理・感情」は、光文社古典新訳文庫『弁論術』の紹介コピー「ロゴス(論理) パトス (感情) エートス(性格)による説得の技術」と同じ3つの語に対応している。紹介文どうしを並べる限り、本書は『弁論術』と同じ3つの語を軸に説得を扱う本として紹介されている。
読者の側でも、2冊は並べて語られている。「本当はレトリックについて知りたかったら、アリストテレスの『弁論術』から始めるのが本道」としたうえで、手早く実践したい人には本書、とする書評がある(ブログ、2021年12月)。「文章術の本かと思って手に取ってみた」が、レトリックはもともと弁論・演説の技術を指していた、という感想も見つかった(ブログ、2022年8月)。
| 本 | 訳者・版元 | 刊行・分量 | 向く人 |
|---|---|---|---|
| THE RHETORIC | 多賀谷正子・ポプラ社 | 2018年・559ページ | 現代の会議や家庭の例で読みたい |
| アリストテレス 弁論術 | 戸塚七郎・岩波文庫 | 1992年・528ページ(Amazon表記) | 原典にあたりたい。版元ページに電子書籍対応の表示あり |
| 弁論術 | 相澤康隆・光文社古典新訳文庫 | 2025年3月 | 新しい訳で原典を読みたい。電子書籍あり |
岩波文庫の版元紹介は、アリストテレスが弁論術を「あらゆる場合にその問題に見合った説得手段を見つけ出す能力」と定義した、と説明している。原典が『弁論術』、その考え方を現代の日常の場面に持ち込んだのが本書、という関係で読み分ければよい。
説得の古典をもう1冊、版の違いから整理した記事もある。交渉の場面に関心があるならこちら。
関連記事: ハーバード流交渉術は訳が2つ?岩瀬訳と文庫版の違い
559ページの構成と口コミの傾向
中身の要約ではなく、紹介記事から分かる構成の地図だけ示す。読書メモを公開しているブログによると、本書は3部に分かれている。
- Part1「攻め」の伝える技術(相手の心をつかむ)
- Part2「守り」の伝える技術(相手の議論から身を守る)
- Part3「攻め」の伝える技術 応用編(相手を自然に動かす)
章の数は、ダ・ヴィンチWebの紹介記事(2018年4月)で「計30章」。版元が「実践編&技法一覧も収録」と書いているとおり、巻末にまとめがあることは複数の読者が触れている。版元ページでは「伝える技術 実践編 パート2」のPDFも配布されている。
口コミでいちばん多いのは、やはり厚さの話だ。
- 厚いが読みやすい見た目こそ「うおおおお」となるが、ページをめくると読みやすい(ダ・ヴィンチWeb、2018年4月)。500ページ超えだが巻末のまとめがあり、手元に置いて辞書的に使える(ブログ、2022年3月)。
- 読むタイミングを選ぶ弱点は「厚いこと」だけ、読む順番を間違えないように、という紹介(書籍紹介サイト、2023年8月)。
- 覚えきれない・具体的でない内容が多岐にわたり簡単には覚えきれなさそう(ブログ、2022年8月)。「長いし難しい」「具体的な方法とかまでは落ちてない」(ブックオフ公式の商品レビュー)。
- 例が米国寄り例がアメリカに偏っていて、アニメのシンプソンなどを知らないと分かりにくいかもしれない(ブログ、2021年12月)。日本では受け入れられにくそうな使用場面がある、という声も(ブックオフ公式の商品レビュー)。
評価の数字は、楽天ブックスの検索結果で3.76(レビュー32件)、ブックオフ公式で3.6(28件)だった(2026年10月13日時点)。厚さを前提に、巻末の一覧を引きながら読む本と受け止められているようだ。
口コミから見ると、薄い本で要点だけ手早く知りたい人や、米国の例(アニメのシンプソンなど)になじみがない人には、合わないと感じる場面がありそうだ。
同じように「どんな本か」を版の違いから整理した定番書の記事として、カーネギーの『人を動かす』もある。対人の古典を並べて読みたい人向け。
関連記事: 人を動かすはどんな本?完全版と旧版の違いも整理
買う前に確かめたいこと
買う形でいちばん注意したいのは、電子版だ。当ブログのKindleライブラリには2021年6月に購入したKindle版が入っている。ところが2026年10月13日時点で、AmazonのKindle版の商品ページは表示されず、Kindleストアの検索にも出てこない。楽天Koboの検索でも電子版は見当たらなかった。
配信が終わったのか一時的なものなのかは、版元からの案内が見つからず判断できない。現時点で確認できたのは、次の状況だ。
| 形式・ストア | 2026年10月13日時点 |
|---|---|
| 紙の単行本(Amazon) | 商品ページあり。新品・中古の出品がある |
| 紙の単行本(楽天ブックス) | 検索結果に「ご注文できない商品」と表示 |
| Kindle版 | 商品ページが表示されない |
| 楽天Kobo | 電子版が見当たらない |
| 文庫・新版 | 見つからない(単行本のみ) |
原題についても書いておく。ポプラ社のページには原題の記載がない。著者の代表作が英語の『Thank You for Arguing』であることはSBクリエイティブの著者紹介にあり、本書の原題をそう紹介するブログもある。ただ英語版は2007年の初版から2020年の第4版まで改訂を重ねていて、日本語版がどの版を訳したかは確認できなかった。
同じ著者の邦訳には、2025年9月にSBクリエイティブから出た『交渉で必要なことはすべてネコが教えてくれた』(権田敦司 訳・216ページ)がある。国立国会図書館の記録では原題は「HOW TO ARGUE WITH A CAT」。版元紹介ではネコの交渉術を例に古代ギリシャの修辞学を扱う本で、559ページの本書より短い。
電子で読みたい場合、原典の『弁論術』は岩波文庫・光文社古典新訳文庫とも電子版の表示がある。原典を電子で読むなら、どのアプリで買うかを目的別に比べた記事も参考になる。
関連記事: ビジネス書を読むならどの電子書籍アプリ?目的別に徹底比較
まとめ
- 正しい書名『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』。「伝える力」という同名の本は見つからない。
- 似た書名の別の本池上彰『伝える力』(PHPビジネス新書・205ページ)は別の著者の別の本。分量と訳者の有無で見分けられる。
- 弁論術との関係レトリック=弁論術。版元はアリストテレスを源流に挙げるが、『弁論術』の解説書や現代語訳とは書いていない。原典は岩波文庫(1992年)と光文社古典新訳文庫(2025年)。
- 本の形ポプラ社・2018年4月・四六判559ページの単行本。2026年10月時点でKindle版・楽天Koboの販売ページは確認できない。
勧められた本が本書だと確かめられたら、次は紙で手元に置くか、まず原典の文庫から入るかの選択になる。厚さが気になる人は、版元ページの立ち読みで目次と分量の感覚をつかんでから決めたい。
話し方の定番書を同じように1冊ずつ整理した記事として、千葉佳織氏の『話し方の戦略』も扱っている。
関連記事: 話し方の戦略(千葉佳織)はどんな本?要約の前に目次と音声版2種
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