戦略的交渉入門(日経文庫)はどんな本?ハーバード×慶應流との関係

田村次朗さんの「交渉学入門」が何冊もあって、どれが同じ本なのか分からない。
戦略的交渉入門(日経文庫)は、田村次朗氏と隅田浩司氏の共著で、2014年3月刊の入門書だ。同じ田村氏が2か月前の2014年1月に出した『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中公新書ラクレ)とは、版元も共著者も違う別の本になる。この記事では、2冊の書誌を表で並べ、日経から出ているもう1冊の「交渉学入門」や日経文庫の交渉本との位置づけまで整理する。
扱うのは書誌・目次・入手形態で、交渉の技法そのものの解説ではない。当ブログは2024年12月にこの本のKindle版を購入している。
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目次
戦略的交渉入門はどんな本か
日経文庫の1299番として2014年3月に出た、交渉学の入門書だ。著者は慶應義塾大学法学部教授で弁護士の田村次朗氏と、交渉学を専門に含む隅田浩司氏の2人。本文255ページに全7章、巻末に参考文献と項目索引がつく。
土台にあるのはハーバード大学で研究されてきた交渉学で、紀伊國屋書店などの内容説明は「ハーバード・ロースクールで研究されてきた交渉学をベースに、日本人にとって役立つように内容を発展させた実践的な入門書」と紹介している。
では、厚さはどうか。新書判で255ページは、日経文庫の交渉本のなかでは厚いほうに入る。同じ日経文庫の『交渉力入門』第4版が202ページなので、およそ50ページ多い。手軽な小冊子を想像して手に取ると、印象が違うかもしれない。
読者の受け止めは分かれている。Amazonのレビューには「文や段落単位は分かり易いが、全体構造が分かりにくい」「メモを取りながら読むと良い」という声がある。一方で「ハーバード大系の本より頭にすんなりと入って来ました」という評もあり、note では「理論寄りなんだけど、奇跡的にわかりやすい」と2冊目に推す記事も見つかった。Amazonの評価は4.2(245件、2026年10月11日時点)。
構造が見えにくいという声があるなら、先に目次を見ておくのが近道だ。次の節で7章の章題をそのまま並べる。
書誌と7章の目次
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 戦略的交渉入門(日経文庫 1299) |
| 著者 | 田村次朗・隅田浩司(共著) |
| 版元 | 日本経済新聞出版社(電子版の出版社表記は日経BP) |
| 刊行 | 2014年3月 |
| 頁数・判型 | 255ページ・18cm(新書判)。参考文献・項目索引はp249-255 |
| ISBN | 978-4-532-11299-8 |
| Kindle版の本の長さ | 222ページ(Amazon表記) |
章立ては次の7章。紀伊國屋書店とe-honの目次に拠る。
- 交渉を失敗させる三つの誤解・交渉を成功させる三つの原則
- 感情と心理バイアス、そして合理性
- パワープレーを打ち破るには
- 交渉戦略を立案する―事前準備の方法論
- 交渉をマネジメントする
- 最高の合意を作り出す交渉の進め方
- 対立を乗り越えて―コンフリクト・マネジメント
版元のコメント(e-hon掲載)は、本書を「「ハーバード流交渉学」に、心理学などの新しい知見を加え、日本のビジネス社会の実情に合わせて解説。」と説明している。第2章の章題に「心理バイアス」が入っているのは、この紹介と対応する部分だろう。
当ブログが持っているのはKindle版で、2024年12月に購入した。購入当時は688円だった(価格は時期により変わる)。
『ハーバード×慶應流 交渉学入門』との関係
結論から言うと、2冊は同じ著者による別々の本だ。『ハーバード×慶應流 交渉学入門』は2014年1月に中公新書ラクレから出た田村氏の単著で、その2か月後に日経文庫から出たのが、隅田氏との共著である本書になる。
| 項目 | ハーバード×慶應流 交渉学入門 | 戦略的交渉入門 |
|---|---|---|
| 刊行 | 2014年1月 | 2014年3月 |
| 版元・叢書 | 中公新書ラクレ 481 | 日本経済新聞出版社・日経文庫 1299 |
| 著者 | 田村次朗(単著) | 田村次朗・隅田浩司(共著) |
| 頁数 | 256ページ | 255ページ |
| 紹介文のキーワード | 「論理的思考」「事前準備」「信頼」 | 「ハーバード流交渉学」に心理学などの知見 |
厚さはほぼ同じ。新書判どうしで1ページ差なので、書店で並べても見分けにくい。決め手は版元のレーベルと著者名の数で、著者名が2人なら日経文庫の本書、1人なら中公新書ラクレ版と覚えておけば取り違えない。
中公新書ラクレ版の紹介文は「「交渉術」では「交渉力」は向上しない」と打ち出している。本書の版元コメントが心理学の知見を前面に出しているのと比べると、同じ著者でも入口の置き方が違うことが読み取れる。
台湾の繁体字版は書名に「哈佛・慶應」と入るが、原題の併記は『戦略的交渉入門』で、本書の翻訳にあたる。
『ビジュアル解説 交渉学入門』と日経文庫『交渉力入門』
「交渉学入門」で探すと、もう1冊、日経から出た本が出てくる。『ビジュアル解説 交渉学入門』(2010年3月・213ページ)だ。田村次朗・一色正彦・隅田浩司の3氏の共著で、2007年刊『交渉学入門』の改訂にあたる。版元は同じ日本経済新聞出版社だが、判型は21cmで日経文庫には入っていない。「日経の交渉学入門」と言われたら、どちらを指すのか確かめたい。
日経文庫で交渉を扱う入門書は、1989年の初版から版を重ねる佐久間賢『交渉力入門』と本書の主に2系統で(本書の改訂版や新版は確認できなかった)、同じ日経系でも判型と叢書で3つに分かれると整理しておくと迷わない。
| 書名 | 叢書・判型 | 刊行・頁数 |
|---|---|---|
| 戦略的交渉入門 | 日経文庫1299・18cm | 2014年3月・255ページ |
| 交渉力入門 第4版 | 日経文庫1246・18cm | 2011年8月・202ページ |
| ビジュアル解説 交渉学入門 | 叢書表記なし・21cm | 2010年3月・213ページ |
入手形態と手に取る順
本書は紙の新書、Kindle版、楽天Kobo版がそろっている。Kindle版はAmazonで2014年3月14日の表記、楽天Koboの配信開始は2019年2月23日。音声版は確認できなかったので、耳で聴きたい人には向かない。名前の似た隅田氏の別著『プロフェッショナルの戦略交渉術』には音声版があるが、本書とは別の本だ。
| こんな人 | 目安 |
|---|---|
| 索引を引きながら読みたい | 紙の新書(項目索引つき) |
| 通勤中にスマホで読みたい | Kindle版か楽天Kobo版 |
| ハーバード流の原典から入りたい | 先に『ハーバード流交渉術』の書誌を確認 |
| 心理バイアスなど心理学の知見も含めて読みたい | 本書(日経文庫) |
| 論理的思考・事前準備から入りたい | 『ハーバード×慶應流 交渉学入門』(中公新書ラクレ) |
| 図解の多い大判で読みたい | 『ビジュアル解説 交渉学入門』を確認 |
| 音声で聴きたい | 本書は音声版が確認できず |
全体構造がつかみにくいという読者の声を踏まえるなら、電子版でも目次から章をたどれる形式のほうが扱いやすいはずだ。ビジネス書を電子で読むアプリの違いは、別の記事で比べている。
関連記事: ビジネス書を読むならどの電子書籍アプリ?目的別に徹底比較
ハーバード流交渉術・交渉の達人とのつながり
本書の版元コメントは「ハーバード流交渉学」を土台にしていると明記している。田村氏自身もハーバード・ロースクールで修士を取り、ハーバード大学国際交渉学プログラムのインターナショナル・アカデミック・アドバイザーを務めた経歴がある(他社刊行書の著者紹介による)。源流にあたるのが、フィッシャー氏とユーリー氏の『ハーバード流交渉術』。こちらは訳が2つあり、その違いを整理した。
関連記事: ハーバード流交渉術は訳が2つ?岩瀬訳と文庫版の違い
同じハーバードの系譜で名前が挙がるのが『交渉の達人』だ。こちらも版が2つあるので、ハーバード流交渉術との関係とあわせてまとめた。
関連記事: 交渉の達人はどんな本?ハーバード流交渉術との関係と2つの版
まとめ|2か月差の2冊は別の本
- 戦略的交渉入門は日経文庫1299田村次朗・隅田浩司の共著。2014年3月刊・255ページ・全7章、参考文献と項目索引つき。
- ハーバード×慶應流 交渉学入門とは別の本こちらは2014年1月の中公新書ラクレ・田村氏の単著・256ページ。著者名が2人なら日経文庫版。
- 日経の「交渉学入門」はもう1冊『ビジュアル解説 交渉学入門』は21cmの大判で、日経文庫ではない。
- 日経文庫の交渉本は主に2系統佐久間賢『交渉力入門』第4版(202ページ)と本書。本書のほうが約50ページ厚い。
- 紙・Kindle・楽天Koboで入手できる音声版は確認できなかった。
同じ田村氏の入門書で迷ったら、まず版元と著者の人数を見る。共著の日経文庫が本書で、単著の新書が中公新書ラクレ版だ。章立てを先に確かめてから選べば、思っていた本と違ったという取り違えは防げる。
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