両利きの経営を学ぶ本はどっち?本家と実践編の使い分け
分厚いうえに翻訳が読みづらくて、骨が折れた——。
「両利きの経営」を学ぼうと本家の理論書を調べると、こんなレビューが目に入ります。既存事業と新規事業の板挟みで、この理論に行き着いたのに、入口の本選びでいきなり「分厚い」「難しい」の壁。しかも書店には『両利きの経営』と『両利きの組織をつくる』という似た名前の本が並んでいて、どちらを買えばいいのか分からない。そんな状態ではないでしょうか。
結論から言うと、この2冊は「本家と便乗本」の関係ではありません。提唱者のチャールズ・A・オライリー本人が、どちらにも著者として名を連ねる公式なペアです。この記事では、2冊の関係と中身の違いを整理し、忙しいマネジャーが挫折せずに学ぶ順番を提案します。
PR:本記事はプロモーションを含みます。
目次
結論: 忙しいなら208ページの実践編から、理論を固めたいなら本家から
先に答えを置きます。
- まず動きたい実務家・時間がないマネジャー両利きの組織をつくるから。208ページとコンパクトで、日本企業AGC(旧旭硝子)の変革事例をベースに理論が語られるため、自社に引きつけて読めます。
- 理論の全体像を体系的に固めたい人両利きの経営(増補改訂版)から。提唱者による国際標準の体系書で、成功・失敗企業の事例が豊富です。ただし読者レビューでは「骨が折れた」の声が定番なので、読む時間の確保が前提になります。
- 迷ったら実践編→本家の2段読み。軽い方から入って理論の骨格をつかみ、本家で体系を補強する順番です。詳しくは後半で説明します。
どちらを選んでも「間違った入口」にはなりません。理由は次の節の、2冊の関係にあります。
2冊の関係と基本情報: 提唱者オライリーは両方の著者
まず知っておきたいのは著者の顔ぶれです。「両利きの経営」理論の提唱者であるスタンフォード大学のチャールズ・A・オライリー教授は、本家『両利きの経営』の著者であると同時に、『両利きの組織をつくる』の共著者でもあります。後者の筆頭著者・加藤雅則氏は、日本におけるオライリー教授の共同研究者。つまり実践編は「他人が書いた解説本」ではなく、理論の本人が関わった日本向けの公式ルートです。
| 両利きの経営(増補改訂版) | 両利きの組織をつくる | |
|---|---|---|
| 著者 | オライリー&タッシュマン | 加藤雅則・オライリー・シェーデ |
| 刊行 | 初版2019年・増補改訂版2022年6月(東洋経済新報社) | 2020年3月(英治出版) |
| 分量 | 大部(レビューで「分厚い」が定番) | 208ページ |
| 性格 | 国際標準の理論書。海外企業の成功・失敗事例が豊富 | 日本実装版。AGCの変革事例+理論+実践知の3部構成 |
| 向く読者 | 理論を体系で押さえたい人・企画/経営層 | 自社でどう始めるかを知りたい実務家 |
「国際標準の理論書」と「日本向け実装版」。役割が分かれているので、比較して優劣を付ける関係ではなく、入口をどちらにするかという選択になります。
本家『両利きの経営』はどんな本か: 探索と深化の理論書
本家『両利きの経営』の骨格は、新しい事業機会を「探索」する活動と、既存事業を磨き込んで収益化する「深化」の活動を、1つの組織で両立させるという理論です。成功した企業ほど深化に偏り、探索を怠って変化に飲まれる——この「成功者の罠」を、豊富な企業事例の対比で解き明かしていきます。読者レビューでは「教科書のような本」という表現がしっくりきます。
版選びの注意を1つ。現行は2022年6月刊の増補改訂版で、原書第2版の翻訳にあたります。旧版(2019年)からの追加は、企業文化を扱う章・イノベーションの規律を扱う章・追加の企業事例・各章末の「結論」節、それに入山章栄氏の監訳・解説と冨山和彦氏の解説。旧版には「論理の分かりづらさ」を指摘するレビューが散見されましたが、章末の結論などで読みやすさの改善が図られています。中古で旧版を安く見つけても、これから買うなら増補改訂版が無難でしょう。
『両利きの組織をつくる』はどんな本か: AGCの変革事例で読む日本実装版
一方の『両利きの組織をつくる』は、素材メーカーAGC(旧旭硝子)の組織変革を題材に、両利きの経営を日本企業でどう実装するかを描いた本です。このAGCの事例はスタンフォード大学経営大学院のビジネスケースにもなっており、書評では「AGCでの具体的な事例・組織開発の理論・著者の実践経験からの示唆」の3パート構成と紹介されています。
強みは、外資の華やかな事例ではなく「大企業病」に悩む日本の伝統企業が舞台であること。翻訳書特有の読みづらさがなく、208ページで読み切れる分量であることも、本家との大きな違いです。筆者がこの本をKindleで購入したのは2020年8月。セール時で購入当時950円でした(価格は時期により変わります)。理論の入口としては手に取りやすい1冊だと思います。
「分厚くて骨が折れる」への対処: 実践編→本家の2段読みルート
本家のレビューには「内容の濃さとボリューム、翻訳された日本語という読みづらさで骨が折れた」という声があります。「分厚い本の割には読みやすく、でも読むのに時間がかかった」という評価も。つまり良書であることと、忙しい人がすんなり読めることは別問題です。
そこで提案したいのが、実践編から入る2段読みです。
- 1段目: 『両利きの組織をつくる』で骨格をつかむ探索と深化の基本概念を、AGCという1社の物語に沿って理解します。208ページなので通勤読書でも数日の分量。自社の「攻めと守り」に置き換えながら読めるのが利点です。
- 2段目: 本家『両利きの経営』で体系を補強する骨格を知った状態なら、分厚い理論書も「知っている話の詳細版」として読めます。海外企業の成功・失敗事例で、1社の物語では得られない一般性を補えます。
オライリー本人が両方に関わっているため、2冊の間で用語や理論がぶれないのがこのルートの安心材料。「軽い入門書で誤解を覚えてしまう」リスクが小さいのです。難解な理論書をやさしい版から攻める同じ考え方は、こちらの記事でも扱っています。
関連記事: 学習する組織は難しい?マンガ版から入る2段読みのすすめ
どこで挫折しやすいか: 2冊に共通する限界と補い方
誠実に書いておくと、2冊とも万能ではありません。読者レビューで繰り返し指摘されるのは「で、明日から何をすればいいのか」の物足りなさです。本家に対しては「実行に持っていくための具体的な道筋は示されていない」、理論全体に対しても「実務の中で正面から取り組むのはかなり難しそう」という感想が残ります。
これは欠陥というより、経営理論の本の性質です。処方箋を期待して読むと肩透かしを食うので、「自社の探索と深化のバランスを議論するための共通言語を手に入れる本」と構えるのが正解に近いと考えています。読後に社内で「うちの探索は何か」を話し合う材料にする——そこまでが1セットです。
なお、両利きの経営が答えようとしている問い(なぜ優良企業ほど新しい波に乗り遅れるのか)は、クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』が提起したものと地続きです。問題編としてジレンマを、解決編として両利きを読むと、理論の位置づけがクリアになります。
関連記事: イノベーションのジレンマとは?書評と現代の読みどころ
まとめ
『両利きの経営』と『両利きの組織をつくる』は、提唱者オライリーが両方に関わる公式ペアであり、「理論の体系書」と「日本実装版」の役割分担です。時間がないなら208ページの実践編から、体系を固めたいなら増補改訂版の本家から。迷ったら実践編→本家の2段読み。どの入口でも、読後に自社の「探索」と「深化」を言葉にしてみるところまでやって、初めて元が取れる本たちです。
コメント
コメントを投稿