マーケットの魔術師はどれから読む?正編と続編の違いと入り方

マーケットの魔術師はどれから読む?正編と続編の違いと入り方

「マーケットの魔術師、シリーズが多すぎてどれが本家か分からない」。
『マーケットの魔術師』を1冊目に選ぼうとして、正・新・株式編・続・エッセンシャル版・知られざる、と書店の棚で並ぶ背表紙の前で止まる人は少なくありません。名前だけ数えれば10種。どれから読むかを調べても、出てくるのは色分けのランキングと「正編から」の一言で、正編と続編で何がどう違うのかは分からないまま。1989年の正編は古くないか、約450ページを頭から通読する本なのか、という迷いも残ります。

この記事では、正編と続編を目次ベースで並べ、「人物の物語から入るなら正編、教訓から先に読むなら続編、株式中心なら続編の第1部」という判断軸を、収録者の属性・時代・部立て・総括章の有無という構造の違いから示します。冒頭では「マーケットの魔術師」と呼ばれる10種を本家・要約版・別著者本・音声シリーズに交通整理する。両冊ともKindle版で所持しているので、書誌と構成は手元の実物で確認しました。トレード手法の解説はしません。

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マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣 表紙

『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』

ジャック・D・シュワッガー(横山直樹 監訳)/パンローリング ウィザードブックシリーズ18

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結論|人物の物語から入るなら正編、教訓から先に読むなら続編、株式中心なら続編第1部

『マーケットの魔術師』シリーズは、人物の物語として読みたいなら正編(1989年)、先に教訓をつかんでから人物に戻りたいなら続編『続マーケットの魔術師』(2012年)、株式投資家として読みたいなら続編の第1部から、というのが目次から出る答えです。理由は単純で、正編にはシリーズ全体を総括する章が存在せず、続編の巻末には「結論 マーケットの魔術師による40の教訓」があるから。「巻末の教訓部分だけ先に読む」という読み方は続編でしか成立しません。

もう一つ、株式の比重も違います。正編で株式トレーダーを扱うのは第二章の4人。続編は日本語版が原著の並びを組み替えて株式トレーダー7人を第1部に置いています。「先物やヘッジファンドの話では」という距離感を持つ株式投資家ほど、正編の第一章(先物と通貨・7人)より続編の第1部の方が入りやすい、というのが構成上の事実です。

筆者は正編と続編を2022年9月8日に同日、Kindleでまとめ買いしました(購入当時各1,000円。価格は時期により変わります)。この記事で書けるのは、その2冊の書誌・目次構造・レビュー傾向から分かることに限る。内容の要約や手法の解説はせず、「どちらを先に開くか」を決める材料だけを並べます。

『マーケットの魔術師』と呼ばれる本は10種|本家5冊・エッセンシャル版・別著者本・音声シリーズの交通整理

まず棚の混乱をほどきます。「マーケットの魔術師」を名乗るものは、著者ジャック・D・シュワッガーの本家が5冊、その要約版が1冊、別著者の本が3冊、書籍ではない音声シリーズが1つ。合計10種です。

区分書名原著/日本語版中身
本家1マーケットの魔術師(通称・青本)Market Wizards 1989/日経新聞社版1992、パンローリング版2001年8月先物・通貨・株式・フロア・心理の5章、17人+著者自身の章。約450ページ
本家2新マーケットの魔術師The New Market Wizards 1992/パンローリング1999年3月17人。ドラッケンミラー、エックハート、リップシュッツなど。520ページ
本家3マーケットの魔術師 株式編(増補版)Stock Market Wizards 2001(原著改訂2003)/パンローリング、増沢浩一 監訳株式トレーダー15人。増補部分は初版収録者の下げ相場後フォローアップ。約600ページ
本家4続マーケットの魔術師Hedge Fund Market Wizards 2012/パンローリング2012年12月ヘッジファンド運用者15人、戦略別3部+40の教訓。約550ページ
本家5知られざるマーケットの魔術師Unknown Market Wizards 2020/パンローリング2021年6月シリーズ5冊目。前4作と違い収録者は全員が個人トレーダー。414ページ
要約マーケットの魔術師 エッセンシャル版 投資で勝つ23の教えThe Little Book of Market Wizards 2014/ダイヤモンド社2014年10月、小野一郎訳正・新・株式編・続の4冊の教訓を23項目に再構成。272ページ。パンローリング刊ではない
別著者大損失編/システムトレーダー編/オーストラリア編前2冊はアート・コリンズ、オーストラリア編はアンソニー・ヒューズほかシュワッガー著ではない。名前を借りた別シリーズ
音声マーケットの魔術師 日出る国の勝者たちパンローリングの音声シリーズ(audiobook.jp等)日本人投資家へのインタビュー音声。書籍ではない

押さえどころは3つ。エッセンシャル版は本家4冊の「抜粋集」ではなく、教訓を23の項目に組み直した別の構成の本で、版元もダイヤモンド社です。「大損失編」「システムトレーダー編」「オーストラリア編」は著者が違う。「日出る国の勝者たち」は本ではなく音声シリーズ。この3点を知っていれば、棚の10種は「本家5冊と、それ以外」に整理できます。なお、『シュワッガーのマーケット教室』はインタビュー集ではないので、本記事の対象から外しました。

「古い」という評価に対しても、この整理が答えになります。正編が題材にするのは1970〜80年代の相場、続編は2000年代から金融危機後、知られざるは2010年代の個人トレーダー。シリーズは巻ごとに時代を分担しているので、「正編は古いから続編から」という判断も、「原点だから正編から」という判断も、どちらも成り立つ。決めるのは時代ではなく、次の節で示す構造の違いです。

正編と続編の構造比較表|収録者の属性・時代・部立て・総括章の有無・分量・有名人の入口

マーケットの魔術師 書影

正編と続編は、同じ著者の同じインタビュー形式でありながら、本の骨格がまったく違います。手元の2冊の目次を並べたのが次の表です。

軸正編(1989)続編(2012)
収録者の属性先物・通貨・株式・フロアの、個人色の強いトレーダーヘッジファンドの運用者(組織で運用する人)
扱う時代1970〜80年代の相場2000年代〜2008年金融危機後
部立て市場別の5章(先物と通貨7人/株式4人/好対照の2人/フロア3人/心理)戦略別の3部(株式7人/グローバルマクロ5人/マルチストラテジー3人)
総括章なし。あとがき「夢とトレード」と補遺・用語集のみあり。「結論 マーケットの魔術師による40の教訓」
分量・人数約450ページ・17人+著者自身約550ページ・15人
有名人の入口ジム・ロジャーズ(第三章)、ウィリアム・オニール(第二章)、ポール・チューダー・ジョーンズ(第一章)レイ・ダリオ(第9章)、エドワード・ソープ(第13章)、ジョエル・グリーンブラット(第1部)
冒頭の1人マイケル・マーカススティーブ・クラーク

正編の目次は次の並びです。第一章「先物と通貨」がマイケル・マーカス、ブルース・コフナー、リチャード・デニス、ポール・チューダー・ジョーンズ、ゲーリー・ビールフェルド、エド・スィコータ、ラリー・ハイトの7人。第二章「株式トレーダー」がマイケル・スタインハルト、ウィリアム・オニール、デビッド・ライアン、マーティ・シュワルツの4人。第三章「好対照のふたり」がジム・ロジャーズとマーク・ワインスタイン、第四章「フロアからの視点」が3人、第五章「トレードの心理学」がバン・K・タープ博士と著者自身の経験。巻末はあとがき、補遺2本、用語集で終わり、「魔術師たちの共通点」のような独立した総括章はありません。原著の目次も同じで、巻末はPostscriptだけです。

続編は日本語版で順番が組み替えられていて、第1部「株式トレーダーたち」がスティーブ・クラーク、マーティン・テイラー、トム・クローガス、ジョー・ヴィディッチ、ケビン・デーリー、ジミー・バロディマス、ジョエル・グリーンブラットの7人。第2部「グローバルマクロ戦略」がコルム・オシア、レイ・ダリオ、ラリー・ベネディクト、スコット・ラムジー、ジャフリー・ウッドリフの5人。第3部「マルチストラテジー」がエドワード・ソープ、ジェイミー・マイ、マイケル・プラットの3人。そのあとに40の教訓、エピローグ、指標の解説、オプションの基礎が続きます。

ここで一つ訂正的に書いておくと、正編の書評の中には「巻末にまとめられた教訓部分だけ先に読む」と勧めるものがあります。その読み方ができるのは続編です。正編を買って巻末を開いても、あるのは補遺と用語集。正編で教訓を拾うなら、各インタビューの中から自分で拾い出すしかない。この違いが「どれから」を決める最大の材料になります。

読む目的別にどれから|人物/教訓/株式/先物・通貨/エッセンシャル版で足りるか

続マーケットの魔術師 書影

構造の違いを、読む目的に翻訳します。自分がどの行に当てはまるかで、最初に開く巻と章が決まります。

読む目的どれから理由
人物の物語として読みたい正編、冒頭のマイケル・マーカスから1970〜80年代の個人色の強いトレーダーが並ぶ。このシリーズは冒頭に印象的なインタビューが置かれることが多い、という読者の声もある
教訓を先につかんでから人物に戻りたい続編、巻末の「40の教訓」から正編に総括章はない。40の教訓を読んでから気になった人の章に戻る、という逆順が続編なら可能
株式投資家として読みたい続編の第1部(7人)から正編の株式は第二章4人。日本語版の続編は株式を第1部に置き、人数も多い
先物・通貨(FX)から読みたい正編の第一章(7人)から先物と通貨が正編でもっとも厚い章(7人)。続編ならグローバルマクロの第2部が対応する
有名人の章を入口にしたい目当ての人がいる巻からジム・ロジャーズ、オニール、PTJは正編。ダリオ、ソープ、グリーンブラットは続編
まず薄い1冊で全体像を知りたいエッセンシャル版(272ページ)4冊の教訓を23項目に再構成した本。ただしインタビューの読み物としての厚みは本編にしかない

「エッセンシャル版で足りるか」は、何を求めているかで答えが分かれます。教訓の一覧が欲しいなら足りる。ダイヤモンド社の要約版は23章272ページで、正・新・株式編・続の4冊から教訓を組み直した本なので、シリーズの結論部分を1冊で見渡せます。一方、この本には個々のトレーダーの生い立ちや失敗の経緯、著者との問答という、シリーズが読み継がれてきた理由の部分がほとんどありません。「トレーダーの話を読みたい」なら本編、「教訓を知りたい」なら要約版、という切り分けです。

有名人を入口にする読み方には、当ブログの記事で橋を架けられる人が2人います。続編第9章のレイ・ダリオは、『PRINCIPLES』の著者。ヘッジファンド運用者としての語りをインタビューで読んでから、本編と要約版の使い分けを知りたい人はこちらへ。

関連記事: PRINCIPLESは分厚い?本編と要約版の使い分け

もう1人は正編第二章のウィリアム・オニール。『オニールの成長株発掘法』の著者で、正編ではインタビューの1章として登場します。手法の中身は本記事では扱いません。オニールの本そのものの構成と前提知識は、別の記事で整理します。

正編第五章「トレードの心理学」に興味が向いた人は、投資判断の心理を扱う行動経済学の入門書へ進む道もあります。どれから読むかは次の記事に。

関連記事: 行動経済学の本はどれから読む?入口は予想どおりに不合理

向かない人|インデックス長期派・即効ノウハウを求める人・手法を真似したい人

読者のレビューを追うと、期待とのズレが出やすい人の型が3つ見えます。買う前に自分が当てはまらないか確かめておくと、約450〜550ページの重さが違ってきます。

  • インデックス投資だけを長期で続ける人「長期のインデックス投資だけを行う人には、直接役立つ場面は限られます」というレビューがあるとおり、このシリーズは能動的に売買するトレーダーへのインタビュー集です。読み物として楽しむ分には問題ありませんが、自分の運用に引き寄せて読める部分は少ない。
  • 即効性のあるノウハウを探している人「具体的なチャート手法や即効性のあるノウハウ本ではない。抽象的で哲学的な要素も多く、即実践に直結すると思うと肩透かしを感じるかもしれない」という声が代表的です。本書はインタビューであって教科書ではなく、正編にいたっては総括章すらありません。
  • 登場する手法をそのまま真似したい人続編のレビューには「本書はそのための解説本ではない。真似したつもりになって実行してみたら大怪我をするような手法の『魔術師』もいたりする」という率直な注意があります。手法は人ごとにばらばらで、再現を前提に書かれていません。

もう一つ、翻訳に対する古い批判の存在も書いておきます。2007年ごろのFXブログには「読みにくい、訳が分かりにくい」という否定派の主張を肯定する記事があり、読みやすさへの評価は割れています。一方で近年のレビューには「投資を始めた時に読んだときは、良さが分からなかったが、投資の経験や勉強を踏まえて読むと、その良さが実感できた」という声もある。入門書を数冊読んだあとに開く本、という位置づけが妥当です。分厚い投資古典の「前に置く本」という考え方は、グレアムの本で書いた記事と同じです。

関連記事: 証券分析は初心者に無理か|グレアムの前に置きたい2冊

向く人と読み方|章は1人1章で独立・Kindleなら二段組の問題なし・同日購入2冊の書誌と注記

向くのは、相場に向き合う人がどう考え、どう失敗し、どう立て直したかを人物の話として読みたい人。株式・先物・通貨と市場をまたいで、規律やリスクの扱い方に共通点があるかを自分で見つけたい人。そして、シリーズが多くて止まっていたが、正編か続編のどちらか1冊から始めると決められた人です。

読み方で知っておきたいのは、通読を前提にしなくていいこと。正編も続編も人物章は1人1章で独立していて、正編の第一章冒頭2節(先物市場とインターバンク市場の説明)と第五章の末尾を除けば、どの章から開いても話がつながります。「気になったトレーダーの章から」という読み方がレビューで繰り返し勧められているのはこのためで、目次で名前を眺めて1人選ぶところから始めれば、約450ページの壁は「1章分」に縮みます。

もう一つは版の形式。正編の紙版については「二段に分かれていて文字が小さいため読みにくいという物理的障害があった」という読者の声があります。筆者が持っているのはKindle版で、電子版は端末の幅に合わせて1段で流れるので、段組の問題はありません。「密度が濃い内容で読み終えるのに2週間以上かかりました」という声もあるとおり、1章ずつ区切って読む本なので、しおりや検索が使える電子版と相性は悪くない形式です。

手元の2冊の書誌をまとめておきます。

  • 正編『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー著、横山直樹 監訳、パンローリング(ウィザードブックシリーズ18、2001年8月)。原著は1989年。日経新聞社版(1992年)が先にあり、パンローリング版で復刻された。Kindle版を2022年9月8日に購入。
  • 続編『続マーケットの魔術師 トップヘッジファンドマネジャーが明かす成功の極意』ジャック・D・シュワッガー著、山口雅裕訳、長尾慎太郎監修、パンローリング(2012年12月)。原著は2012年。Kindle版を正編と同じ日にまとめて購入。

結論を繰り返すと、人物の物語から入るなら正編、教訓から先に読むなら続編、株式中心なら続編の第1部。どちらを先にしても、もう1冊は後から自然に続きます。シリーズ全体を投資名著の中でどこに置くかは、実蔵書で組んだ読む順番の記事で扱っています。

関連記事: 投資・経済の名著おすすめ|実蔵書20冊で組む読む順番

注記: 本記事は書籍の紹介であり投資助言ではありません。書籍に登場する運用成績や手法の再現性について、当ブログは一切保証しません。

マーケットの魔術師 表紙続マーケットの魔術師 表紙

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