フェルマーの最終定理は難しい?数学が苦手でも読める章と飛ばす章

「ただし、半分まで。楕円方程式とか、背理法とか、オイラーとかくると、もはや理解不可能」。
『フェルマーの最終定理』(新潮文庫)を数学が苦手なまま読んだ人が、レビューに残した言葉です。数学が苦手でも読めると勧められて手に取ったのに、中盤で置いていかれる。別のレビューには「文字がみっちり詰まって500ページ級」「読む前には挫折するかと思いました」とある一方、「数学よくわからなくても面白がれてしまう」という声も多い。この記事は、『フェルマーの最終定理』が難しいと言われる場所を章番号で特定し、数学が苦手でも読める章と飛ばしてよい章を分け、飛ばすと話がつながらなくなる1点だけを示したものです。
結論を先に言うと、難所は本の中盤、第4章後半から第5章に集中しています。前半はピュタゴラスから始まる数学者たちの歴史、後半はアンドリュー・ワイルズの7年間の物語。筆者はこの新潮文庫版を2021年8月にKindleで購入し、目次と複数のレビューの一致点から章ごとの数学の密度を表にしました。定理や証明の中身には踏み込みません。
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目次
- 結論|難しいのは第4章後半から第5章の中盤だけ。前半はピュタゴラスから、後半はワイルズの7年間の物語
- 章構成と数学の密度|序・第1〜8章・補遺の主題と、数学の密度を低・中・高で示す表(新潮文庫512頁)
- 「半分まで読める」の半分はどこか|谷山=志村予想・楕円方程式・背理法が出る第5章がレビューの一致点
- 飛ばしてよい箇所と飛ばせない1点|補遺の証明と第5章の細部は飛ばせる。「予想が証明されれば定理も」の1点だけ押さえる
- 中盤で止まった人ほど後半に進める理由|第6〜8章はワイルズの秘密の研究・発表後の欠陥・修正という人物ドラマ
- 版と揃え方|単行本2000・文庫2006・Kindle 2016の書誌、500頁超を読み放題やセールで、学び直し3冊まとめへ
結論|難しいのは第4章後半から第5章の中盤だけ。前半はピュタゴラスから、後半はワイルズの7年間の物語
『フェルマーの最終定理』で数学が苦手な人が止まるのは、本の中盤です。第4章「抽象のなかへ」の後半から第5章「背理法」にかけて、20世紀の数学の抽象化と、谷山=志村予想、楕円方程式、モジュラー形式といった言葉が続けて出てくる。レビューで「半分まで」「楕円方程式とか、背理法とか、オイラーとかくると、もはや理解不可能」と言われるのはここです。
逆に言うと、それ以外の章は数学の密度が低い。第1章から第3章までは古代ギリシャのピュタゴラスから17世紀のフェルマー、18〜19世紀のオイラーやソフィー・ジェルマンまで、定理に挑んで敗れた数学者たちの歴史。第6章から第8章は、1993年の発表とその後に見つかった欠陥、修正までのアンドリュー・ワイルズの物語です。数学の本ではなく「数学者の本」と呼ぶレビューが多い理由は、この前後の厚みにあります。
だから読み方は単純です。中盤で分からなくなっても、そこは飛ばしてよい。ただし1点だけ、第5章で「ある予想が証明されれば、フェルマーの最終定理も証明されたことになる」と2つの問題が結びつく箇所は、後半のドラマの前提になるので押さえておく。予想の中身を理解する必要はありません。結びついたという事実だけで、第6章以降は読めます。
章構成と数学の密度|序・第1〜8章・補遺の主題と、数学の密度を低・中・高で示す表(新潮文庫512頁)
新潮文庫版(512頁)の目次と、各章の主題、数学の密度の目安です。章題は目次どおり。密度は複数のレビューが「分からなくなった」と挙げる箇所の一致点から置いた目安で、内容の要約ではありません。
| 章 | 章題 | 主題 | 数学の密度 |
|---|---|---|---|
| 序・はじめに | 序(ジョナサン・リンチ)・はじめに(サイモン・シン) | 序文と著者による導入 | 低 |
| 第1章 | 「ここで終わりにしたいと思います」 | 1993年6月のケンブリッジでの講演と、ピュタゴラスの定理から最終定理へ | 低 |
| 第2章 | 謎をかける人 | 17世紀のフェルマー本人と、余白に残された命題 | 低 |
| 第3章 | 数学の恥 | オイラー以降、個別の場合しか証明できなかった時代 | 低〜中 |
| 第4章 | 抽象のなかへ | 20世紀の数学の抽象化 | 中〜高(後半) |
| 第5章 | 背理法 | 谷山=志村予想と、それが最終定理と結びつくまで | 高 |
| 第6章 | 秘密の計算 | ワイルズの少年時代から、7年間の秘密の研究 | 中 |
| 第7章 | 小さな問題点 | 1993年の発表後に見つかった欠陥と、その修正 | 低〜中 |
| 第8章 | 数学の大統一 | 証明の完成と、その後の数学 | 低〜中 |
| 補遺 | 補遺 | 本文中の数学パズルや証明の補足 | 高 |
表を見て分かる通り、「高」は第5章と補遺だけ。第4章の後半を含めても、512頁のうち数学の密度が高い部分は限られています。「文字がみっちり500ページ級」という分量感と、「数学の本」という語感の両方で身構えていた人は、まずこの配分を知っておくと入りやすい。
「半分まで読める」の半分はどこか|谷山=志村予想・楕円方程式・背理法が出る第5章がレビューの一致点
冒頭のレビューが言う「半分まで」を、目次に当てはめます。レビューが「理解不可能」の目印に挙げた言葉は、楕円方程式、背理法、オイラー。このうちオイラーは第3章「数学の恥」の主役で、ここはまだ歴史の読み物として読める章です。楕円方程式と背理法が本格的に出るのは第4章「抽象のなかへ」の後半から第5章「背理法」。全8章の第4〜5章、ちょうど本の真ん中に当たります。
この位置は、別のレビューとも一致します。「谷山=志村予想自体、相当難解な予想」「あまりの難解さに証明の目途が全く立たない」と書く読者は、いずれも第5章を指している。松岡正剛の千夜千冊は「本書後半の3分の1でどきどきしたのは、この二人の日本人のことだった」と、谷山豊と志村五郎の章を本書の白眉に挙げています。全8章の第5章は、頁数で見れば後半の入口。物語として最も熱い場所が、同時に数学の密度が最も上がる場所でもあります。
大事なのは、同じレビューが続けて「でも、分からなくても、分からないなりに読めてしまう」と書いていること。第5章を、理解するための章ではなく「2つの別々の問題が結びついた」という出来事を読む章として読んでいる人が多い。数学者たちがなぜ興奮したのかは、式が分からなくても文脈で伝わる、というのがレビューの一致点で、「これは数学の教科書、参考書、問題集ではありません」という言葉の意味もそこにあります。
飛ばしてよい箇所と飛ばせない1点|補遺の証明と第5章の細部は飛ばせる。「予想が証明されれば定理も」の1点だけ押さえる
飛ばしてよい箇所と、飛ばすと後半がつながらなくなる箇所を分けます。
- 飛ばしてよい:補遺本文中の数学パズルや証明の補足をまとめた巻末部分。「補遺で解説されているのも有難い」というレビューがある通り、興味のある人向けの付録で、本文の物語には影響しません。
- 飛ばしてよい:第4章後半から第5章の論理の細部20世紀の数学がどう抽象化したか、楕円方程式とモジュラー形式がどう対応するのか、なぜ背理法でつながるのか、という筋道の細部。分からないまま先に進んでも、第6章以降の物語は読めます。「少し冗長というか欲張りすぎ?」というレビューはこのあたりを指していると思われます。
- 飛ばせない1点:第5章の「結びつき」「谷山=志村予想が証明されれば、フェルマーの最終定理も証明されたことになる」と2つの問題がつながった、という出来事。ここだけは押さえておく必要があります。第6章でワイルズが7年間も屋根裏にこもって取り組むのは、最終定理そのものではなく、この予想の証明だからです。結びつきを知らないと、第6章以降で「なぜ別の問題をやっているのか」が分からなくなる。予想の中身は分からなくて構いません。
もう1つ、読み方の注意。「いかに難問か、どれだけの数学者がさじを投げてきたか、ということが、各章各エピソードの冒頭で紹介される」「ちょっとしつこいと思った」というレビューがあります。各章の導入で同じ前置きが繰り返される構造なので、2章目以降は導入を流し読みしても話は追えます。
中盤で止まった人ほど後半に進める理由|第6〜8章はワイルズの秘密の研究・発表後の欠陥・修正という人物ドラマ
第5章で止まった人が、その先を読まずに閉じてしまうのはもったいない構成です。第6章「秘密の計算」以降は、数学の密度が下がり、人物の物語に切り替わります。
第6章は、少年時代にこの問題と出会ったワイルズが、周囲に告げずに7年間、一人で証明に取り組む話。第7章「小さな問題点」は、1993年6月の講演で証明を発表した後に欠陥が見つかり、それを埋める話。第8章「数学の大統一」は証明の完成と、それが数学全体にとって何を意味したか。レビューが「終盤はいよいよワイルズの戦い」「一種のミステリーとも思えるような展開」と書くのは、この3章のことです。
とくに第7章は、発表後に「証明が綻んでいる」と噂される中で、ワイルズがどう修正にたどり着いたかという展開で、数式の理解を前提にしていません。中盤で分からなくなった人が、飛ばして第6章から再開しても、ここは読める。前半で「数学者たちが350年間敗れ続けた」歴史を読んでいれば、なおさら第6章以降の重みが伝わります。
向かない人も書いておきます。定理の証明そのものを理解したい人には、この本は向かない。「証明自体には触れられてはいない(書かれていてもわかるはずがない)」というレビューの通り、本書は証明の内容ではなく、証明に至る人の歴史を書いた本です。
版と揃え方|単行本2000・文庫2006・Kindle 2016の書誌、500頁超を読み放題やセールで、学び直し3冊まとめへ
版の系譜は3段階。単行本は2000年1月に新潮社から『フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』の題で刊行。文庫は2006年5月、新潮文庫で副題が外れて512頁。Kindle版は2016年12月配信です。文庫化に伴う加筆の有無は版元の情報に記載がないので、ここでは書きません。
| 版 | 刊行・配信 | 書名 | 分量 | 筆者の所持 |
|---|---|---|---|---|
| 単行本 | 2000年1月 | フェルマーの最終定理 ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで | 未確認 | 未所持 |
| 新潮文庫 | 2006年5月 | フェルマーの最終定理 | 512頁 | Kindle版(2021年8月購入) |
| Kindle版 | 2016年12月 | 文庫版と同じ | 文庫版と同じ | 同上 |
筆者はKindle版を2021年8月に購入しました(購入当時711円。価格は時期により変わります)。512頁を紙で持ち歩くか、電子で章ごとに区切って読むか。中盤を飛ばして後半に進む読み方をするなら、目次から章へ飛べる電子版のほうが扱いやすい本です。読み放題の対象になっているかは時期で変わるので、ストアの比較から確かめるのが早い。
関連記事: 電子書籍の読み放題サブスク比較|Kindle Unlimited・楽天マガジン・シーモアの違い
本書は、当ブログの学び直し3冊まとめで「数学の物語」として紹介した1冊。同じまとめの残り2冊、『統計学が最強の学問である』と『失敗の科学』も、それぞれ「どこで止まるか」と「版の違い」を章単位で書いています。
関連記事: 大人の学び直しは教養書から|統計学・失敗の科学・フェルマー
関連記事: 統計学が最強の学問であるは難しい?実践編と数学編の読む順番
「上巻で止まる本を、止まる箇所と進む基準で読む」という同じ型の記事に『ファスト&スロー』があります。分厚い本の中盤で止まる人には、こちらも。
関連記事: ファスト&スローは上下巻とも必要?上巻で止まる理由と進む基準
まとめます。『フェルマーの最終定理』が難しいのは、第4章後半から第5章「背理法」にかけての中盤だけ。前半3章は数学者たちの歴史、後半3章はワイルズの7年間と発表後の修正という人物ドラマで、数学の密度は低い。補遺と第5章の論理の細部は飛ばしてよく、「予想が証明されれば定理も証明される」と結びついた事実だけ押さえれば、第6章以降は読めます。新潮文庫は512頁、Kindle版は2016年から。中盤で止まった人ほど、後半に進める本です。
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