HARD THINGSはどんな本?経営者以外が読んで意味があるか

「そういう立場の人間ではないので、読むのに時間がかかった」。
『HARD THINGS』のレビューで目にとまるのは、こんな声です。シリコンバレーの必読書、経営者のバイブル。評判は聞くけれど、CEOでも起業家でもない自分が読んで意味があるのか。タイトルからは中身も想像しにくく、判断に困っている人は多いはずです。
この記事では、本書が「前半は壮絶な自伝、後半は教訓集」という2部構成であることを先に示し、経営者以外の立場別にどう読めばよいかを3パターンで整理します。結論だけ先に言うと、全員が通読すべき本ではありません。でも、読みどころを選べば会社員にも十分に元が取れる本です。
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目次
HARD THINGSはどんな本か|前半は自伝、後半は教訓集
『HARD THINGS』は、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者ベン・ホロウィッツが2014年に出した一冊です。日本語版は2015年、日経BPから。もとは著者がブログに書きためていた経営の教訓に、「その教訓を得た背景を知りたい」という声が集まり、書籍になったという経緯があります。
だから構造が独特です。前半のおよそ3章は、著者がCEOとして地獄を見た年月の自伝。後半は、そこから絞り出した教訓集。一般的なビジネス書のように概念が整理されて積み上がる本ではなく、体験談と教訓が生々しいまま並んでいます。要約サイトの多くが前半を「要約に向かない」と扱うのは、このためです。
言い換えると、この本は「答えのない難問にどう立ち向かったか」のドキュメンタリーと、その現場から届いたメモの合本。ここを知らずにノウハウ集を期待して開くと、面食らうことになります。
著者ベン・ホロウィッツの「苦闘」|株価35セントから16億ドル売却まで
前半の自伝パートがどれほど壮絶か、事実だけ並べてみます。
- ドットコムバブル崩壊の直撃1999年に共同創業したLoudcloudは、上場直後にITバブルが弾け、顧客が次々に倒産。株価は35セントまで急落します。
- 売上9割の顧客が解約を通告最大顧客の倒産、収益の大半を占める顧客の解約危機、資金ショート。3度のレイオフに踏み切らざるを得ない状況が続きます。
- それでも生き残り、16億ドルで売却事業モデルを根本から転換したOpswareは、2007年にHewlett-Packardへ16億ドルで売却。壮絶な「苦闘(The Struggle)」の末の着地でした。
著者はこの経験から、「成功するCEOの秘訣はない。あるとすれば、良い手がないときに最善の手を打つ能力だ」と書きます。前半はこの一文の重みを体感させるためのパートと言っていいでしょう。
後半の教訓で何が学べるか|悪い知らせ・解雇・平時と戦時のCEO
後半の教訓パートから、本書の代名詞になっている論点を3つだけ紹介します。
| 教訓 | 中身 |
|---|---|
| ありのままを語る | 悪い知らせほど早く、正確に共有する。問題を隠すより、多くの頭脳を問題解決に向けたほうが会社は強くなる |
| 人を正しく解雇する方法 | 先送りしない、理由を自分の中で明確にする、管理職を訓練する、全社員に説明する。最も苦痛な仕事の手順を正面から書く |
| 平時のCEOと戦時のCEO | 余裕のある局面と生存を賭けた局面ではリーダーシップの型がまったく違う、という本書で最も引用される区別 |
ここで気づくと思いますが、これらは経営者だけの話ではありません。悪い知らせをどう伝えるか、修羅場でどう意思決定するか。チームを持つ人なら誰でも当事者になり得るテーマです。
経営者以外の読み方3パターン|立場別にどの章を読むか
そこで、立場別の読み方を提案します。
- マネジャー・チームリーダーの場合後半の教訓パートから読み始めるのが効率的。「ありのままを語る」「人を正しく解雇する方法」など、悪い知らせと人の問題を扱う章は、規模を問わず組織の話として読めます。
- PM・一般の会社員の場合興味のある教訓だけ拾い読みで十分。自分の会社の経営判断を「あちら側の視点」で見る補助線になり、経営陣の打ち手の意図が読めるようになります。
- 起業を考えている場合前半の自伝から通読を。起業の華やかな面ではなく、最悪期に何が起きるかを事前に知れる読み物は貴重です。
共通するコツは、最初の1ページから律儀に読み進めようとしないこと。この本は「困ったときに戻ってくる本棚の常備薬」のような使い方が合っています。
読みにくさへの構え|翻訳の硬さと米国文脈にどう向き合うか
正直に触れておくべき短所もあります。レビューには「文章が硬い」「翻訳が読みにくい」という声があり、レイオフや上場の描写は良くも悪くもアメリカン。日本の雇用慣行とは前提が違うため、「起業家でないと実感しにくい」という感想が出るのも無理はありません。
おすすめの構えは、ハウツーではなくドキュメンタリーとして読むこと。手順を自分の職場にそのまま当てはめるのではなく、「極限状態の意思決定の記録」として距離を取って読むと、文脈の違いはむしろ興味深い資料になります。ノンフィクションが好きな人なら、前半はビジネス書というより物語として楽しめるはずです。
まとめ|向く人・向かない人と買い方の実例
『HARD THINGS』は、前半が壮絶な自伝、後半が現場の教訓集という2部構成の本です。体系的なノウハウを期待する本ではなく、答えのない局面の記録として読む本。そう構えれば、経営者でなくても読みどころは十分にあります。
- 向いている人チームや組織の修羅場に備えたい人、経営者の視点を追体験したい人、シリコンバレーのノンフィクションが好きな人。
- 向いていない人今日から使える体系的なフレームワークを探している人。その場合は戦略や方法論の本から入るほうが満足度は高いでしょう。
購入の実例をひとつ。筆者はKindle版を2020年8月のセールで購入しました。購入当時の価格は900円です。日経BPのビジネス書はセール常連のため、急がなければ安く手に入る機会があります(価格は時期により変わります)。
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なお、賭けどころの選び方は『ゼロ・トゥ・ワン』、検証の回し方は『リーン・スタートアップ』が扱う領域です。スタートアップ名著の中でのこの本の位置は「最悪期の経営」。3冊で役割がきれいに分かれています。
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