星の王子さまを大人が読み返す理由|訳の選び方も
「大切なものは、目に見えない」。この一文、本当の意味で分かって引用していますか——。
星の王子さまは、多くの人が子ども時代に一度通過して、それきりになっている本です。名文句だけが独り歩きし、物語の記憶は砂漠とバラとヘビの断片だけ。それはこの本のいちばん美味しい読み方を、まだ試していないということかもしれません。
この記事の主張はシンプルです。星の王子さまは、子どもの本の顔をした、大人の本。筆者は2021年に中公文庫版を買い直して本棚に置きました。読み返す価値と、著作権切れゆえの「訳を選ぶ楽しみ」を案内します。解釈の正解は示しません——それはこの本が読者ごとに用意しているものだからです。
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結論: 子どもの本の顔をした、大人の本
語り手は、砂漠に不時着した飛行士の「大人」です。そして物語の全編に流れているのは、仕事・数字・体裁に埋もれていく大人の生活への、静かな問いかけ。子どもの頃に読んだときピンとこなかったのは当然で、この本の宛先は、あの頃のあなたではなく、いまのあなただからです。
だから「読み返し」というより「初めて宛先に届く読書」に近い。バラの世話に疲れたことがある人、点灯夫のように忙しさに追われたことがある人ほど、ページの手応えは変わります。
どんな物語かをネタバレなしで
サハラ砂漠に不時着した飛行士が、小さな星から来たという不思議な少年に出会う。少年が旅の途中で出会った星々の住人の話、残してきたバラの話を聞くうちに、飛行士の——そして読者の——「大事なもの」の順番が静かに揺さぶられていきます。
1943年の刊行以来、世界中で読み継がれてきた20世紀文学の金字塔です。作者サン=テグジュペリ自身が飛行士だったことも、この物語の砂漠の実在感を支えています。
大人が読み返すと何が変わるか
- 星々の住人が他人事でなくなる命令する王様、数を数え続けるビジネスマン。子どもの頃は変な人たちだった彼らに、いまは心当たりがあるはずです。
- 名文句が文脈ごと届く「大切なものは目に見えない」は、物語のどの位置で誰が言うかまで含めて初めて効く言葉です。引用でなく本文で浴び直す価値があります。
- 読後に残るものが変わるここは断定しません。何が残るかは読者ごとに違う——それ自体がこの本の設計だと、多くの読み手が書き残しています。
訳がたくさんある楽しみ
原著の著作権保護期間が満了しているため、日本では2005年前後から新訳が相次ぎ、いまや十数種類規模の翻訳が流通しています。定番の内藤濯訳から、各社の新訳まで、同じ物語が違う声で語られている状態です。
これは迷う理由ではなく、楽しみです。書店や電子ストアで冒頭を読み比べ、いちばん肌に合う声を選ぶ。筆者は2021年12月に中公文庫版(購入当時413円。価格は時期により変わります)を選びました。短い本だからこそ、訳の個性がはっきり味わえます。
1時間で読める・耳でも聴ける
本文は文庫で150ページほど。集中すれば1〜2時間、寝る前の2晩で読み切れる長さです。忙しさを理由に名作を諦めている人にとって、これほど費用対効果の高い1冊はありません。
また、語りの文体は朗読との相性が良く、オーディオブック各社の定番ラインナップでもあります。通勤の耳読書で「聴く星の王子さま」から入るルートも現実的です。
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短い名作の本棚
「短くて深い」路線が合うなら、文庫1冊で読めるカミュの異邦人、30分で読める日本の名作短編が同じ棚に並びます。海外文学全体の登り方はピラー記事へ。
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まとめ|宛先は、いまのあなた
- 大人にこそ届く本語り手も問いも大人のもの。読み返しではなく「初めて届く読書」です。
- 訳を選ぶ楽しみがある十数種類規模の翻訳から、冒頭読み比べで自分の声を選べます。
- 1〜2時間で読める文庫150ページ。耳読書ルートもあります。
あの名文句を、引用ではなく本文で受け取り直す夜を、どうぞ。
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